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第10話 二人のやり方

 それは、二学期の始業式が終わった後のことだった。 生徒がほぼ下校して静かになったはずの校庭に、女子生徒が何人もたむろしていた。 穂村は、渡り廊下からその集団を見つけて、何事かと首をひねった。 女子生徒たちは、誰かを中心に輪になって、きゃっきゃと盛り上がっている。そのくせ、大声で騒いでいるわけではない。 「おーい、そこー。一度下校して、飯食ってから部活に来いよー」 声をかけると、全員が一斉に穂村を見た。人差し指を口に当てて、静かにしろというジェスチャーをする生徒もいる。 穂村は、首を傾げた。 すると、一人が手招きをした。 穂村が、渡り廊下を進んで地続きの中庭に出ると、生徒たちも近づいてきた。 「先生、ほら!」 生徒の輪がばらけると、中心に立つ生徒の腕の中に赤ん坊がいた。 「ん?……っ!」 あまりに驚いて、またしても大声が出そうになったところを、生徒たちに睨まれて何とか飲み込んだ。 「……酒井の妹か?」 穂村は、赤ん坊の顔を恐る恐るのぞきこみながら、聞いてみた。すると、満面の笑顔が帰ってきた。 「はい。かわいいでしょう!やっと三か月になって、母さんが皆に見せてもいいって言ってくれたの!」 姉なのか母なのかわからない顔で笑っているのは、酒井という名の二年生だった。小さな妹が、可愛くて嬉しくてたまらないといった風情だ。 「三か月……。ちっ……さいな?」 「やだ先生。赤ちゃんは皆小っちゃいよ。可愛いよねぇ、ほっぺたも手も指もぷにぷにだよ?」 穂村は、そおっと赤ん坊の顔を覗き込んだ。 人見知りをしないのか、赤ん坊は大人しく抱っこされて泣いたりはしない。ただ自由に、姉の制服のボタンをさわろうとしたり、髪の毛を掴もうとしたりしている。 「先生、触ってみる?」 「い、いや、いいよ。怖いし」 「赤ちゃん、抱っこしたことない?」 「ないなぁ。……それにしても、きれいな目だな」 感心したようにそう言うと、生徒たちがほっぺたをつついてみろと、しきりに勧める。 穂村は、照れ臭いような怖いような気がしたけれど、赤ん坊があんまり柔らかそうなので、思い切って人差し指をでそっと白くて丸い頬に触れてみた 「ほっぺた……っやっ……らかいな」 穂村の驚く様子に、酒井は満足そうにうなづき、周囲の生徒たちからは嬉し気な笑い声が溢れた。 「いやいや、ありがとう。赤ん坊が、こんなに小さくて柔らかくて、きれいなものとは知らなかった。でも、気を付けて帰れよ。赤ん坊には暑いだろ?」 「はーい!」 機嫌良く返事をして、酒井は友人たちと一緒に正門へと向かった。最後に、赤ん坊の手をふって「先生バイバイ」と付け加えたので、穂村もゆったりと手を振った。 それにしても、赤ん坊の頬も額も鼻の頭も、何もかもがすべすべのふわふわだった。ぱっちりと開いた眼は、真っ黒く光る中心と青白く磨かれたような白目でてきていて、黒い睫毛がぐるっとその周囲を囲んでいた。 鼻も口も小さいのにちゃんと形作られていて、ほんのりと甘い匂いもした。 まだまだ暑い夏空の下、穂村は、渡り廊下を戻りながら、赤ん坊の自分を抱っこする母親を思い浮かべた。 あんな風にまっさらで、ぴかぴかだったらよかったのに。 そうしたら、母はあれほど嘆かずにすんだろうにと思うと、申し訳ない。 でも、自分にはどうにもできない。 申し訳なかったなと思う反面、先崎のようにかっこいいと思ってくれたなら。それが無理でも、せめてもう少し前向きにとらえてくれたら、お互いに拗れずに済んだかもしれなかったのにと思う。 吹っ切れたと思っていても、小さなしこりが消えるわけではないのだと、思い出してしまった。 蒸し暑い廊下を吹き抜ける風に背中を押されるようにして、穂村は職員室へ戻った。 ☆ その頃、先崎宛てに、姉の灯からメールが届いた。 ロンドンで暮らす姉は、現地でフランス人の男性と結婚している。 現在、妊娠7か月を迎え安定期に入ったので、日本に帰ってくるのだという。 しかし、メールの最後に「店に行く」と書いてあるわりに、日付が書いていない。 先崎は、苦笑いしながら「頼むから、飛行機の予定と帰国の日時を教えてくれよ」と、返信した。 ついでに、「お祝いのプレゼントに何が欲しいか考えておけ」と追加することも忘れなかった。 灯と夫のアンリは、仕事仲間としてロンドンで知り合った。 ゲイ寄りのバイを自認するアンリと、男勝りで大柄な灯がどうして出会ってしまったのか。本当のところは、神のみぞ知るということだろう。 でも、スカイプで「結婚するの」と教えてくれた灯は、今まで見たどの灯よりも幸せに満ちた顔をしていた。 横に寄り添うアンリは、はにかみながら「はじめまして」と挨拶をしてくれた。華奢で、優し気で、亜麻色の髪をきちんと整えた、お洒落な男だ。 先崎も、拙い英語を駆使して、アンリに挨拶をした。灯と幸せになってねと伝えた。 その時、二人は花が咲いたように笑った。 あの二人に、子どもができる。あの二人が、親になる。 先崎は、心から嬉しい。胃袋がホカホカしてくるような、背筋がむずむずするような。 この喜びを、祖父に伝えたい。穂村にも伝えたい。 きっと、父、母、兄たちも浮かれているだろう。 でも先崎は、祖父と穂村との三人で、灯の新しい人生のスタートを喜びたいと思った。 先崎の頭の中に浮かぶイメージでは、祖父を中心に左右に灯と先崎がいる。 そのまた隣に、それぞれの伴侶がいて、アンリの腕にはこれから産まれてくる赤ん坊が抱かれている。 ふわふわと幸せな妄想を育ててきたけれど、ここでその勢いが、はたと止まる。 穂村は、ずっと隣にいてくれるだろうか。祖父を中心とした、このチームのメンバーになってくれるだろうか。 それは、家族になるという事だけれど。 ☆  その晩、先崎は穂村に姉夫婦と子どもの話をした。 「おめでとうございます。おじさん?」 ソファに並んで座っていた穂村が、先崎の顔をのぞき込むようにして、揶揄うように笑った。 「なぁ!俺もおじさんだって。なんだか顔がにやけてしょうがない。嬉しいなぁ。赤ん坊」 「俺も、今日、生徒の妹っていう三か月の赤ん坊に少し触らせてもらいました。滅茶苦茶柔らかかったですよ」 「そっかぁ、柔らかいのかぁ。灯の赤ちゃん、無事に産まれるといいなぁ。まぁまだまだ先なんだけどな」 先崎は、へへへと笑って照れくさそうだ。 「……子ども、好きでしたっけ?」 「いや。灯の子どもだから。ユキは、確か兄弟いたよな?」 「はい。弟がいます。そのうち結婚すると思いますよ」 「ふーん……ユキは?どうすんの?」 「え……?」 先崎は、努めて明るく、軽く、いつものように話をつづける。そのくせ、目は膝の上で組んだ手元に落ちている。 「俺は、産めないから。……灯に頼むわけにも、いかないし」 「ああ……。その心配なら、いりません。母は、俺が子どもを作らないなら、そちらを喜ぶはずです」 「なんで?」 「痣は遺伝しないって、頭ではわかってるんですよ?でも、可能性はゼロじゃないから怖いみたいで」 「お前の子どもにも痣が出るかもって心配してんの?わかんなくはないけど……。それに、たとえそうだったとしても、お前やお母さんのせいじゃないだろ?」 「そうなんですけどね。……そう、そうです。俺の痣は、母のせいですら、ないんです。でも、そこが割り切れないみたいです。俺に対しても、未だに申し訳ないと思っています。その上、孫にまで出たら。多分、母には受け入れられない」 「なんで、そんな……それじゃ、ずっと?ずっとお前の痣は、お前のお母さんの心の傷になってるの?」 「はい。ずっと傷つき続けているから、俺の痣と関わらなくてもいいようにしておきたいんです。でも、俺の人生から痣が消えるわけじゃないですからね。付き合っていかなきゃいけない。幸いなことに、父がわかってくれて、母との間に立ってくれました。だから、母を恨まずにすんでます。水泳を続けさせてくれたのも、父です」 「……良かった、っとは、言いきれないけど、せめてお父さんが理性的で、良かったよ」 「だから、親から子どもは?って聞かれたりしないんです」 「お前自身は、子ども欲しくないの?」 「サキさんとの子じゃないなら、いりません。だから、もしも、もしもですよ?サキさんが親戚の子を育てたいとか、養子をとかっていうなら、一緒に育てたいです」 「俺、ありきってこと?」 「はい」 「ユキは、先生なのに、ほんとに莫迦だなぁ」 「丁度いいでしょう?」 穂村は、先崎の方を向いて座りなおすと、膝の上で組まれていた両手を解いて、しっかりと握った。 そして、ね?と同意を求めるように、首を傾げて先崎の目を見つめる。 先崎は、眉間に皺を寄せたまま、しばらくじっと穂村を見つめ返していたが、小さく溜息をついて強く手を握り返した。 「なぁ、ユキ。そしたら、そしたら……、俺たち、いっそ家族になっちまうか?じいちゃんの子どもになってさ」 「おじいさんの……」 「そ。じいちゃんを挟んで、灯チームと俺チーム。全部で、家族」 「俺も、入れてもらえるんですか?」 「夢みたいな話だけど、あながち夢でもねぇよ?なろうと思えば、なれるよ、家族に」 先崎の言葉に、穂村からの返答がない。先崎は、失敗したかと、慌てて言葉を繋いだ。 「や……や、いいんだよ、うん。ちょっと、思っただけだから、気にしなくて……」 慌てて手を離そうとしたら、逆につないだまま両手を引かれて、穂村の胸に抱き寄せられた。 「ユ……キ……?」 「嬉しい、嬉しいです」 先崎の首元に顔を埋めて、穂村は絞り出すように呟いていた。先崎の頬に当たる穂村の耳は、熱い。 「ユキ……」 「はい」 「いつか、家族に、なろう?」 「はい、必ず」 顔あげた穂村は、先崎の目をしっかりと見つめて嬉しいと笑っている。 先崎は、これは新しい約束だと思った。 だから、もう一度しておかなければならないことがある。 「ユキ、約束だ」 そう言って、先崎は穂村にキスをした。 八年前とは比べものにならないくらい、深く深く、唇を重ねた。 ☆  重ね合わせた唇が、軟らかくて、暖かい。絡む舌が甘くて、体全部が緩んでいきそうになる。 先崎から仕掛けたはずだったのに、いつの間にか主導権を奪われていた。 そして、穂村の執拗なキスが、先崎の腹の奥に小さな火をつける。 先崎は、キスに煽られてじんわりと目覚め始めた己の分身を隠すように、そっと腰を後ろに引いた。 「ん?」 どうしたのかと、穂村が小さく問いかけるように目をのぞき込む。 「……な、んでも、ない」 先崎は、ごまかすように穂村の頬や顎にキスを繰り返しながらも、少しの距離を維持しようと穂村の胸に手をあてた。 「逃げないで、ください」 穂村は、耳元でそう囁いて、先崎の体をぐいともう一度引き寄せた。 「や、あ、の……だから、その」 「いや、じゃないですよね?」 確信犯のような声で囁きながら、穂村は先崎の耳の先を唇でつまむ。 「っひっ……あ、の……そういう、のは、あの、なんか、今はダメかと、おもって」 「……可愛い」 耳元で呟くと、穂村は先崎の膝の裏に手を廻して、ぐいと持ち上げた。 くるんと世界は回転して、先崎の視線の先には天井、頭の下にはソファという状態に持ち込まれてしまった。 「サキさん、可愛い」 「や、あの、待てって」 「だって、嬉しくて、可愛くて、我慢できないです」 「……い、いの?」 「何がですか?」 「だから、その、折角いい話、してたのに、したく、なったりして、そんで」 「いいに決まってるでしょ?ほら」 穂村は、柔らかな部屋着越しに、硬くなったそれを先崎の腿にぐいと押し付ける。 「あんな嬉しいこと言われて、可愛いキスをして、こうならないほうが不思議です」 「ユキ……」 先崎の、真っ黒な目が潤んで目じりがふりゃりと下がる。穂村は、ぎゅうっと先崎の体を抱きしめて、首や鎖骨にあぐあぐと咬みつく。 「あ、んんんっと、だから、ソファはダメだっ……て!」 穂村は、がばっと身を起こすと、怖いような顔をして先崎の手首をつかんだ。 「ユ……」 「ベッドに、行きましょう」 先崎は、飛びつくように穂村に抱き着いた。力強くその体を抱えあげて、穂村は寝室へと向かった。  争うように服を脱いで、一秒でも離れていたくないと、互いの体に唇を押し付ける。 ちゅっちゅっと小さな水音がして、細い息が漏れて、先崎と穂村は複雑に絡まりながらベッドに転がっている。 「んん……うん……ん……」 先崎の薄い脇腹を、指先でなぞり下ろしながら、胸の先に口に含んで舌先で嘗め回す。 先崎は「待っていた」と言うけれど、穂村だって待っていた。 キス一つで約束をした気になって、懐に飛び込んだはいいけれど、どうしていいかわからない。結局、二年もの間、大人しく忠実に傍に居続けたのだ。 その身も心も許された今となって、何の遠慮があるだろうか。 赤く小さな乳首も、くっきりと硬さのある鎖骨や肋骨も、特別な傷痕も、その口と舌で存分に味わうつもりだ。 包んで、転がして、なぞって、吸って、咬みついて。 先崎の声と体が、気持ちいいと応えるやり方で、その体の全てにキスをしたい。 「こ、っちも……」 待ちぼうけをくらっていたほうの乳首に、先崎が穂村の手を導く。 指先でくりとつまみあげると、甘い声が鼻を抜けて背を反らして胸を突き出す。 日頃、男らしくさっぱりとした気性の先崎が、かくも愛らしく身をよじらせるのかと思うと、穂村は熱く硬くその身を育てずにはいられない。 「サキさん、可愛い、やらしくて、きれいで、めちゃくちゃ可愛い」 「ユキが……ユキの……」 穂村のせいだと言いたいのだろう。抗議をするように眉尻をあげて穂村を見つめるけれど、赤い頬、濡れた唇、もれる吐息が全部を帳消しにしてしまう。 その上、先崎の筋張った長い指が、穂村の熱い塊をぎゅっと握りしめる。 「……で、か」 「ちょ、っと……」 先崎は、うっとりと目を閉じると、親指で先端をくるくると撫でながらやわやわと全体を撫でさすり始める。 それならと、穂村はローションを手に取って、先崎の内腿を撫で始める。 くちゅくちゅと粘着質な音がして、先崎の足がびくびくと跳ねる。膝裏を支えて控えめな入り口に指を伸ばせば、そこは切なげにひくひくと蠢いていた。 「ユキ……ユキ……」 先崎は、濡れた目で穂村を見ながら、おずおずともう片方の足も広げてみせる。 わかっていると、穂村は頷いて、濡れた指で入り口を広げ始めた。 くにゅくにゅと指先を動かして、小さな隙間に指先を滑り込ませる。指先だけをひっかけてゆっくりと外側に力をかけていくと、くぽっと空気のぬける音がして、入り口が開く。 穂村は、ゆっくりゆっくり時間をかけて、先崎の体をほどいていく。 先崎も、少しずつ力を抜いて、恥ずかしさを忘れて、穂村の導くままに緩んでいく。 そうして、張り詰めたモノを奥まで飲み込むと、それだけで先崎の体は歓喜に震える。 びくびくと腰がはねて、背中をしならせて、穂村の肩にしがみつく。 「ユキ……ちょ、と、あ、まだ、動いちゃ、ああああ、あ、あ、あああ、や、やだ、来て、きて」 穂村は、ゆっくりと後ろにスイングしてから、力強く押し戻す。 また大きく戻して、今度は先崎のいいところを狙って浅く戻してはゆるゆると揺する。 「あ、あん、んんん、ん、ん、ん、ゆ、き、いい、あ……」 どうしようもなく漏れてしまう声と息と甘い言葉。 穂村は、先崎に深くキスをして、その言葉ごと飲み込もうと舌を伸ばす。 「サキ、さん、好き、すきです……」 今更にすぎる告白に応えるように、見た事もないような艶やかな顔をした先崎が、腰をぐいと揺らした。 「サキ、さん……んん……っ!」 きゅうとしまる奥に引きずり込まれるように、穂村は先崎の足をぐいと押し広げて、深く深く自身を沈めた。 ☆ 永遠に続くかと思うような興奮と熱が冷めて、先崎は深く眠っている。 穂村は、その髪や肩をやさしく撫でながら、すぐ傍に横になっていた。 「まっさきひかる」 最初にその名を聞いた時、頭に思い浮かんだ漢字は、「真っ先に、光」だった。 夜、最初に光る星とは何だろうと調べると、宵の明星・金星とあった。 まだ暗くなりきらない夜空に、たった一つ眩しく光る星。 それは、毎日決まって現れる。誰もいなくても構わない。仲間がいなくても、気にしない。悪天候にも雲の隙間に必ずいる。 自分のいるべき場所に迷いなく、いつもまっすぐ立っている。 まるで、先崎光そのもののようだと思った。 あばたもエクボは、承知の上だ。 それでも、あの夏、なんの迷いもなく「かっこいい」と言ってくれた先崎と金星が重なるような気がして、仕方がなかった。 それまで、夜空の星なんて気にしたことがなかったのに、先崎光の名前を知ってから変わった。 気が付けば、夕闇せまる空を見上げて、金星を探すようになった。 こんなセンチメンタルな習慣の事は、もちろん先崎は知らない。 穂村が、どれほど先崎の姿に支えられてきたか、それも知らない。 それでいいと、思っている。 先崎が、自分自身を必要以上に重く感じる必要はない。ただ、穂村が生きていくために、そこに居続けてほしいだけだ。 もちろん、できるだけ幸せに生きてほしい。 自分にできることがあるのなら、何でもしたいと思っている。けれど、できたら最後まで一緒に居させてほしい。 そう願うのは、欲深いことだろうかとも思っていたが、先崎は約束をくれた。 家族になろうと言ってくれた。 穂村は、改めて先崎の頬や唇を指でなでた。 優しく、優しく、慈しむように。 すると、睫毛が小さく揺れて、瞼が動いた。 「……ユキ?」 「ここにいますよ」 頬に手を添えると、先崎は嬉しそうに笑った。 そして、またすーっと眠ってしまった。 穂村は、先崎と自分を布団でくるんで少し眠ることにした。 海原堂は、小さな本屋。 主人と伴侶は、仲がいい。男同士なのが、いささか風変りだけれど、なくてはならない良い店だ。 穂村は、先崎の暖かい体を抱きよせたまま、そんな夢を見た。 いつか、本当になる夢を。  ― 終 ―

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