1 / 11
第1話
例えば好きという思いがもっと目に見える形で分かったなら、世界の愛はもっと簡単に成立していたかもしれない。だけどきっとその分惨めな思いも多いだろうし、どんなに思ったって無駄だって簡単に諦めてしまう思いも多いだろう。
彼の好きは目に見える程明らかだった。
だけど、それで諦めることを俺は決してしなかった。
だって、どうせもうすぐ俺はいなくなるんだから。
今諦めたって、次の思いは生まれない。生まれたって、実って幸せになったって、それはそれで苦しいだけなんだ。
だったらこの思いを持ち続けて、今のこの苦しさだけで消えた方がまだマシなんじゃないかって思ったんだ。
「真城、これ頼む」
「あ、うん」
「……どーした、お前元気ないじゃん」
「そ、んなことない!めっちゃ元気!今日も透はかっこいいな!」
「あー、心配すんじゃなかったな、うぜー」
抱きつかんばかりの勢いで透に近づけば、片手でおでこを押さえつけられて阻止された。
俺は口を尖らせてケチだとごちるように呟いた。
「いーからさっさと顧問とこ提出してこい」
「えー、俺が?まあいいけどさあ……」
図書委員長の彼、藤林透十七歳。平の図書委員であり彼の親友兼元クラスメイトの俺、真城司同じく十七歳。
出来上がった書類は今月のリクエスト図書のリスト。
これを提出すれば来月か再来月には全校生徒の所望する本が図書室に並ぶ算段だ。
大きな学校だし、進学校だからリクエストは多いが、男子校だからエロ本とかをリクエストするバカもたまにいる。もちろん排除だけど。
「……あー、……」
一人図書室を後に、意味のない声を漏らしながら廊下を進む。
この声はいつまで出るのだろう。
この足はいつまで動くのだろう。
この目はいつまで透を映すだろう。
「みんな死んじゃえばいいのに」
なんて、誰にも聞こえないくらい小さな声でまた呟く。
誰もいないから聞こえるわけないけど、こんな背徳的な言葉間違っても誰にもきかれたくない。
明るくて、バカで、八方美人な今の俺が、こんなこと言うキャラだなんて、もう誰にも思われたくなかった。
それでも一人呟くのは、きっとこのまま死ぬのが悔しいからだ。
知られたくないけど、発散したい。
みんなはこのまま生きて誰かと通じて幸せになるのに、自分ばかりひとりぼっちで何も得られず消えるのが嫌なんだ。
顧問は職員室にはいない。
社会科の教師だから、社会科準備室にいる。
ノックを二回、中に入ると他の先生も数人いて、俺は失礼しますと貼付けた笑顔を浮かべて顧問に書類を渡した。
「ああ、お疲れさん。今日はもうあと十分で終わりだな」
「はい。委員長が今やってます」
「あいつ意外と真面目だよなー。見た目校則違反だけど」
「頭良いし運動神経も良いしイケメンだし、まーじムカつきますよね」
「男子校じゃなかったらぜってー注意してるけど、野郎しかいねえからどうでもいいわ」
「ははっ、先生ほんとおもしろい、そーゆうとこ好きです」
「……お前はアホだけどたまにドキッとする程色気あるよな、男じゃなかったらなあ」
「男とか言う前に生徒なんですけど」
「卒業したらこっちのもんだ」
「ちょっと新見せんせー、うちの顧問どう思います?」
「篠原先生は若いしかっこいいから、いいんじゃない?」
「ほら」
「ほらじゃないっす、まあいいや、帰ります。さようならです」
「おお、気をつけてな」
「はーい」
顧問の篠原先生は好きだ。優しいし面白いし、かっこいい。
だけど嫌い。
だって透は、篠原先生が好きだから。
ともだちにシェアしよう!