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第2話
俺が図書室に戻ると透は頬杖をつきながら最近話題の推理小説を読んでいた。
「おお、おつかれ」
「……てかさ、自分で行けば良かったじゃん?」
「やだよ」
「なんで」
「だって俺篠原好きだもん。どーにかしたくなる」
「……ホモ野郎」
「お前もだろ!」
「俺は博愛主義なの!今は周りに男子が多いから必然的にそーなんの!あ、透も好きだよ!透は顔が好き!もっちろん優しくてかっこいい篠原せんせのことも好きだけど」
「篠原に手出したらぶち殺す」
「はいはーい、しませんよー」
手元の本を眺めるように軽くページを捲る透の横顔は綺麗で素敵で、やっぱり好きだと思った。
だけど顧問の篠原先生が好きな透は、少し嫌い。
先生の話を幸せそうに、楽しそうにする透は見ていて幸せになるくらい愛しいけど、嫌い。
そんなことをしているうちに下校のチャイムが鳴り響く。
「終わったな、帰るか」
「だな」
「どーする、何か食ってく?」
「どっちでも」
「ラーメン行こ、駅前に新しくできたって」
「あぁ」
俺の思いは彼には見えない。
きっと興味もないだろうけど、どっちにしたって見せられるようなものではない。
歪んで、醜くて、悲しくて、綺麗じゃないこんな思いは見せられない。
***
俺の一族には百年に一度決まって犠牲者が生まれる。
まるでファンタジーみたいな話だけど、ほんとの話。
俺の生まれた丁度百年前にその犠牲者は亡くなった。わずか十八歳。
陶器のように白く美しい肌と、絹糸のように滑らかな灰色の髪の毛。
宝石のような光彩を放つ青い瞳、触れたら壊れてしまう、最初からそんな儚い人だったときく。
彼女の場合は左の耳の裏。
そこには不思議な、例えるならト音記号みたいな、でもそんなに可愛らしい模様じゃない、もっと禍々しい呪詛がそこにはあった。彼女の皮膚には相応しくない、鈍い色をした、入れ墨みたいな、最初は薄いその模様。
それを持って生まれたものは、二十歳を迎えずに死ぬ。
何世代も前から続く真城の一族の呪い。
呪いが終わる日は、一族が途絶える日だろう。
いっそ滅んでしまえば良い、そう思うのに、その犠牲者が現れるとそれがまるで神への生け贄みたいに、真城の一族は発展を遂げていく。
一族からは何人もの優秀な、社会の代表となるような人物が排出された。
俺の家族は本家本筋ではなかった。しかし何故か俺に呪いの模様が出た。
右目の真っすぐ上の額、完全に前髪に隠れる位置。
生まれた瞬間にすぐ分かった。
両親は悲しんでくれているけれど、本家は予想外の出来事にみんなが喜んだだろう。
小学校に上がる年に両親と一緒に本家に赴き、それを聞かされた俺は全てを全て理解したわけではなかっただろう。だけど、家に帰るころには泣きつかれて眠っていたと聞かされる。
それからは誰にも本当のことは言わないで生きた。
悲しそうな顔を浮かべる両親の元に居たくなくて、高校から一人暮らしをした。幸い弟が生まれたから、俺は勝手に家のことは全て彼に任せることに決めた。
そこで透に出会った。
どうみても男の、透の、何に、どこに惚れたんだろう。
見た目?中身?たまたま隣の席だったからだろうか。わからない。
でもその思いを確信した瞬間は覚えている。
いつもみたいに、透が篠原先生を目にして、声をかけたときだった。
もう何度か見たその光景。でもそのとき俺は初めて、ああ、俺は透が好きだったんだって思ったんだ。
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