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第11話

放課後。 俺は生徒会室の扉の前に居た。 図書室には、居なかった。 電話には出てくれない。 自分勝手で自己中だけど、叶わないけど、お前も俺を少しは利用したんだから、もう一回俺の思いを伝えるくらい許してくれ。 「たのもー!」 ノックを五回くらいして、生徒会室の扉を開けた。 「……真城、くん?」 副会長が会長席に座ってパソコンから視線をずらし、俺を見た。 「あれ、透は?」 「ああ、彼なら今図書室に向かったけど?委員長に伝え忘れてたことあったらしいよ」 「さんきゅ!」 俺は深呼吸して、駆け出した。 入れ違いとか、さすが。 俺たち、やっぱ相性悪いな。 廊下は走っちゃいけません。そんなの今更守ったって意味ない、俺は今まで一番ってくらい全力で走った。先生とかいっぱいすれ違ったけど、速すぎて注意できないみたい。 世界は、広い。 でも俺の世界は、ちっぽけで、狭くて。 でも深い。 「はあ、はあ、は、はあ、あー」 息切れで死にそうになりながら、図書室の扉を勢い良く開け放った。 中には数人の生徒。 その中に、透は居た。 「ちょっと借りる!」 「は?」 「え」 新しく委員長になった元副委員長にそう告げて、俺は透の手首を引っ張った。 そのまま、奥の準備室まで。 バタンと扉を閉めて鍵をする。 「……何だよいきなり」 「看病ありがとう」 「……は、あぁ、うん」 「あのさ。……俺まだ好きだよ。透のこと」 「……」 「あのときは、逃げた。だって、俺お前のこと幸せにしてやれないもん。でも、もういー、お前は最後に俺がいなくても多分幸せになれるし、だったらそれでいい。俺のこと好きかもとか、そんな嘘言わせてゴメン」 「は?……嘘って何だよ」 「お前が好きなのは、せんせーだろ」 「……ましろ」 「俺は、せんせーのこと大好きなお前が好きだった、同情でキスされても虚しかった」 「お前は、俺のこと……優柔不断とか思ったか」 「そーいうんじゃない」 「なあ、気付いてないのか?」 「なにが?」 「俺はもう、お前のことが好きだ」 「…なにそれ?」 「とぼけるのかよ」 「とぼけてねーよ」 「俺はお前といる時間が好きだった。親友で、友達で、俺の気持ち知っててくれて、心地よくて……先生のことは好きだったけど、本当に好きだったけど、お前から好きって言われて、正直、お前との時間がなくなるって考えたら、そっちの方が大事だって気付いた。好きの種類が変わるなんて、あり得るのか考えた、……考えて、そしたらお前にキスしてた。だったらそれはそういう好きってことだろ」 「透、誰にでもキスできるでしょ」 「周防のことか?アレは、アイツが勝手にしてきた、事故だ。でもしたことには変わりないから、否定しなかっただけだ」 「……それでも」 「さっきから、お前はなんで俺の気持ちから逃げんだよ。俺のこと好きなんだろ?俺は別にお前に幸せにしてもらいたいなんて思ってない、俺が幸せにしてやる、それでいいだろ」 「おっとこまえ、だね」 そんなことを言われたら、俺はもうどうすれば良いのか分からない。 残酷すぎる、優しさだ。 目の前にある束の間の幸せが、怖い。 それを掴んでしまったら、近い未来、俺も、そして透も悲しい思いをする。 分かっているからこそ、ここで彼の思いを受け取ってはいけない。 俺は自分勝手にも、本当に、ただ思いを伝えたかっただけなんだ。 「俺、透が好き。……透も、俺が好き?」 「好きだ」 「嬉しい。それなら、これで終わりでいい」 「なんでだよ」 おもむろに額を触り、晒す。 「……前より、濃くなったか?」 「ほんとは言っちゃダメなんだけど、透はばらすような人じゃないから」 「何が」 「俺死ぬよ」 「は?」 「もうすぐ」 「どういう意味だよ?それが原因か?」 「うん。透は、死ぬ人間を愛せるの?」 「さっきからお前、なんなんだよ。そんなに俺と付き合いたくないのか」 「そんなわけ、ないじゃん。でもそんな夢みたいなこと、起こっちゃいけない」 俺はゆっくりと透に近づき、彼を抱きしめた。 透は俺を見つめて、いつものようにキスをした。 透は俺よりずっと強く、俺を抱きしめた。 「馬鹿なこと言ってないで、大人しく俺のモノになれ」 「うわあ、めちゃ俺様だ」 「……死ぬとか、言うな」 「俺、くだらない嘘は好きじゃないって知ってるだろ」 「だったらそんなくだらない嘘言うな」 「この痣みたいな印が、俺を殺す。そしたらやっと俺は自由になれる」 「俺の恋人は電波だったのか」 「ちょっとー、勝手に恋人にしないで」 「真城、いいから黙れって」 またひとつ、透は俺にキスをした。 幸せを絵に描いたみたい。嬉しくて、悲しくて、また涙が溢れる。 俺は本当に自分勝手だな。これで俺が死んだら、透はものすごく不幸せになってしまう。 透の瞳に、俺が映った。 あ、 思いが見える。 本当だ。 透は俺を愛していた。 END

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