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第10話

「はい。今一番、墨みたいに濃いです。しばらく変わりありません」 本家への電話を切って、俺は制服に腕を通した。 あと何回この制服に身をつつむだろう。 やっと熱が引き、気持ち悪さもなくなった。 あれから四日休んで、金曜日。 俺は学校へ向かった。 透とは一切連絡を取っていない。 額の印はあれからずっと真っ黒。 あと幾日で薄れ始めるのだろう。 死んだら、この印は消えるらしい。 それはそれで、少し寂しい。なんて、バカみたいな考えだろうか。 *** 「おー久しぶり」 「はよ」 飯田に声をかけられ、笑顔で返事をする。 「ノートいる?」 「ん。もらっとくわ」 「まー、お前には必要ないだろうけどな」 ぶっちゃけ全部分かってるから、ほんとは必要ないけどさ。 飯田の汚い字も見納めだと思うと、借りとこうかなって思うわけ。 「桜散っちゃったな」 「お前が休んでる間に、すっかり」 「はー、寂しいなあ。俺桜好きなのに」 「そーいえばお前誕生日、来週?」 「……いーえ。俺は永遠のセブンティーン」 「なにそれ」 「あー、誕生日なんてこなくていいわ」 十八歳になんてなりたくない。 きっと俺はその日、死ぬ。 まるで電池が切れたロボットみたいに。 「飯田さ、もし物心ついてすぐに、命の期限知らされてたらどーする」 「なんかの映画か漫画?」 「そー。飯田ならどうする」 「うーん……まあ、もしホントに死ぬって分かってんならやりたいこと全部やるな、俺だったら!有り金全部使うとか、好きな子に告白するとか、学校サボるとか!」 「そっか」 「……なに、なになになにその反応」 「べっつにー、……や、なんか、さんきゅ」 「はあ?なんだよ」 「俺も、そうだなって思って。俺もそうしたい」 なあ、今更俺が、本当はまだ、ずっと透が好きなんて言ったら、 それは透を傷つけるだけだよな。 それとも、 もしかして、少しは喜んでくれるかな?

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