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第9話
痣の所為なのか、ただの風邪なのか、すこぶる体調が悪かった。
体温計なんか買ってないから分からないけど、手で触った額がいつもより熱い気はした。
起き上がれない。
ただの風邪じゃないのかもしれない。
インフルエンザとか、かな。
両親とは住んでいないから、もちろん彼らの助けは望めない。
このまま死ぬのかもしれない。
風邪で死ぬなんて、あり得るのか?
サボりのときはしたことないけど、学校に電話とかってするもんなんだっけ。
丸一日サボったことないからよく分からない。
迷ったけど、連絡先を知っていた篠原先生に風邪で休みます担任に伝えて下さいとメッセージを送って、俺はそれきり目を閉じた。
目を覚ますと汗まみれで、体が変に冷えた。
ふらふらと起き上がりケータイをタップすると、大量の着信があった。
「とーる」
一番上にあった透にリダイヤルする。
「おいもしもし?」
「なにー、怒ってる?」
「電話でろ!!」
「……寝てた」
「はあ?いいから鍵開けろ!」
「え」
「今マンションの前」
「……待ってたの?」
「篠原に風邪だってきいた」
「早退?」
「ああ、どーでもいいからはやくあけろ!」
言われるがままにマンションのエントランスのドアを開けて、自分の部屋の鍵のロックも解除した。
少ししたら仏頂面の透が現れた。
手に、何かいろいろ持ってた。
ポカリ、冷えピタ、マスク、のど飴、風邪薬、レトルトのおかゆ、体温計、その他諸々をフローリングに広げた透は、俺をソファに座らせて額に手を乗せた。冷たくて気持ちよかった。
「休むなら言えよ!」
「なんで」
「なんでって、何お前」
「……頭痛い」
「てかお前薄着過ぎだし、てか濡れてね?着替えろ!」
「……うー」
無理矢理脱がされて上半身裸に剥かれた。寒い。
汗で気持ち悪いし、シャワー浴びよう。でも気持ち悪くて動きたくない。てか動けない。
「とおる、きもちわるい、」
「ちょっと待ってろ」
タオルをお湯で濡らしてしぼったもので、透は俺の体を拭いた。透のくせに甲斐甲斐しくて少し笑える。
「んー」
「……」
ボーッとしていたらキスをされた。
「……やばい」
「透、どした」
「っ」
押し倒されてまた深いキスをされた。病人だから、あんま激しいのはやめてほしい。
「お前エロい」
「は?」
「……ヤりたい」
「それは、まって、きょうはむりでしょ」
「…」
乳首に手が這う。ぐにぐにと摘まれ、ピンっと弾かれる。
「んっ」
「ましろ」
「と、とおるさん、だめだよー」
おちゃらけて言ってみたけど、透の目は野獣みたいだった。
呼吸も荒いし、まるで俺の風邪が移ったみたい。
「んぅ」
片方の手は胸からへそをいやらしげに行き来して、もう片方はずっと乳首を弄っていた。透の唇が俺の唇から顎へ、顎から肩へ、そしてもう片方の乳首に触れる。舐められて体に電気が走ったみたいにびくつくと、透の唇はぱくりと開いて俺の小さな突起を食んだ。ぐちゅぐちゅと厭らしい音が響く、俺のか細い女の子みたいな喘ぎ声も断続的に響く。
「あ、ぁ、ぁあ、ふ、ん」
「まし、ろ……つかさ」
ぐっと俺のズボンを脱がし始める透。
俺の目からよく分からない涙がこぼれる。
透、好き。
好きだ。
「とおる……」
「つかさ」
俺のモノに透が触れた。透は乳首から唇を離して俺を見つめる。
俺は泣きながら、彼の首に自分の両手を回してキスをした。
「……やめよう、とおる」
「……真城?」
これからだ、と
きっと今透は絶頂に盛り上がっていただろう。
だけど俺は、自分でも驚くくらい涙を流しながら、透から退いた。
「透、篠原先生が好きなら、ダメだよ」
「……」
「こういうのは、ダメだ」
「お前、前初めてヤるなら俺にしろって言っただろ……」
「……なんだ、そんなこと……律儀だね透」
「真城、」
「キスもセックスも、好きな人としかしちゃダメだよ」
「好きなら良いのか」
「……いいんじゃない?」
「俺は、お前が好き、だと思う」
「はっきりしないなあ、それって同情じゃないの……どっちにしても、もう俺はダメだよ」
「は?」
「俺は、ダメ」
「……もう、好きじゃない、のか」
「……うん」
気付いたら、新しいスウェットに着替えさせられた俺はアイス枕と冷却シートに挟まれて寝ていた。
ロウテーブルにはラップのかけられたおかゆ。枕元には体温計と飲料水。
透の姿はなかった。
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