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せめて 抱きしめて〜起〜 10

* 大きな門の前に立つ。 西洋風の上部が円形になり、先が尖(とが)っている門。 その門の向こうには道が続いており、これまた西洋風の家が建っている。 二階建てだが、天井が高く作られているので、普通の家の二階よりも高い。 白い壁に蔦(つた)が這(は)っている。 屋根は青いがだいぶくすんでしまっている。 ここがボクの家だった。 ボクはその門はくぐらずに、そのまま敷地を沿うように道を進む。 ちょうど家の裏にある通用門を開けて入る。 目の前に通用口があるので、その鍵を開けて中に入った。 家には誰もいない。 今現在、ここにはボクしか住んでいない。 父も母も都内にマンションを買って、そっちを拠点(きょてん)にしている。 ここには、月に1回も帰って来ない。 ボクを閉じ込める城塞(じょうさい)になっている。 お手伝いさんもいないので、掃除と洗濯は週一回業者が来てやってくれる。 食事は自分で作ったりもしないので、外食で済ませている。 生活費とお小遣いは、口座に振り込まれているので、ボクはそれを好きに下ろして遣うだけだ。 二階にある自分の部屋に行くため、ボクは通用口を入って台所を抜けて、廊下に出る。 正面玄関から続く廊下。 木造なので木目の落ち着く茶色の床は、ワックスが塗られてピカピカしている。 玄関も木製で、何処かの職人が彫ったのだろう、花やぶどうなど見事な植物が施された大きな扉だ。 だけど、その玄関をボクは使わない。 ここを使うのはたまに帰ってくる両親と、掃除しにくる業者だけ。 玄関から入って廊下を歩くと正面に階段がある造りになっている。 ボクはその階段を上り、右手にある自分の部屋へ向かう。 鍵なんてかけないので、ボクはこれも木造の重々しい扉を開けて、中に入る。何気なく鞄(かばん)からスマートフォンを取り出して、ベットに寝っ転がった。

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