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せめて 抱きしめて〜承〜 5
どうして、どうしてこの人達はボクに優しくしてくれるんだろう?
どうして、こんなにも暖かいんだろう?
目に涙がにじんで来た。
視界がぼやける。
どんどん出て来る涙が、目から溢れて頬(ほほ)を伝っていく。
いきなり泣き出したボクに、燿子さんは驚いて、
「え?!痛かった?!そんな強く叩いてないけど・・・」
「ちが・・・違います・・・」
「ええ?・・・ちょ、泣かないでよ。私が虐(いじ)めたみたいじゃない」
「ちが・・・ふぇ・・・」
止めようと止めようと思っているのに、涙は止まらなかった。
燿子さんはおたおたとしていて、どうしたらいいのかわからない状態になっている。
そんな時に部員達と剛さんが現れた。
泣いているボクを見て剛さんが、
「千都星?!どうした?燿子に虐められたか?」
とボクの顔を覗き込む。心配そうな表情が嬉しかった。
「虐めてないわよ!今日は一緒にご飯行こうって誘っただけよ」
燿子さんが憤慨(ふんがい)して抗議する。
副部長をしている人が、
「あ〜あ、可哀想に。燿子さん自分より美人だと、虐めるからな〜」
「だから違うっての!千都星、いい加減泣くのやめてよね」
「千都星ちゃん可哀想・・・お局(つぼね)に虐められて」
「これってパワハラ?」
「おお、そうだパワハラだ」
部員達が完全に悪ノリして燿子さんにパワハラだと言っている。
冗談だとわかっているからこそのやり取り。
ボクは涙が止まらなくって、嗚咽(おえつ)も止まらなくって、目の前に立っている剛さんに、思わず抱きついてしまった。
広い胸に顔を埋めていると、温かくて心が落ち着いて来るのがわかった。
剛さんは急に抱きついてきたボクを、どう扱ったら良いのかわからないようで、ものすごく慌てている。
それでも、剛さんはボクの背中をさすってくれて、頭を撫ぜてくれた。
「大丈夫だから。もう大丈夫だから」
「うん・・うん・・」
ボクは頷(うなず)くことしかできなかった。
別に虐められたわけじゃないけど、逆にとても嬉しかったんだけど、何も言えなかった。
こうやってみんなといると、今まで自分がいかに一人ぼっちだったのかを、実感した。
ご飯食べに行ったり、冗談を言い合ったり、日常の何気ない場面が、ボクにはなかった。
いつも、いつも、一人だった。
それが淋しいなんて、気付かなかった。
でも、もう気付いてしまった。
気付いたら、失うのが恐くなった。
失って、また一人になるのが恐かった。
剛さんがいる嬉しさと、失うかもしれない恐怖が混ざって。
ボクは、剛さんの胸にしがみついていた。
暖かいここに、ずっといたかった。
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