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せめて 抱きしめて〜転〜 6

* ボクは行く当てがなく、とりあえず駅まで歩いて行った。 すっかり夜になり、空には小さな星と月が出ていた。 駅から人が吐き出されて来る。 みんな仕事を終えて帰宅する人なんだろう。 家に帰れば、誰かが待ってくれている。 家にも帰れず、たった一人でこんなところにいるボクとは、大違いだ。 何処に行けばいいのかわからない。 自分の居場所がわからない。 剛さんに連絡を取ろうと思ったけど、スマートフォンを鞄に入れていて、その鞄を家に置いて来てしまった。 剛さんの電話番号を暗記していないので、公衆電話から電話することもできない。 財布もない。 お金はズボンのポケットに入れた小銭が数百円あるだけだった。 家の鍵もポケットに入っている。 でも、家には帰りたくない。 数百円じゃ、ご飯も食べれないし、ホテルに泊まることもできない。 ボクは仕方なく切符を買う。 人が出て来る改札を、逆に通ってホームに入って行った。 いつも乗る方向とは逆の方へ行く電車を待つ。 ここから20分ほど先に大きな街があり、ボクはそこへ行くことにした。 程なく電車が止まり、人の少ない車内に入る。 座席に座って、茫然と窓の外を眺めた。 夜なのでガラスに自分の顔が映った。 酷い顔をしている。 殴られた頬は腫れてるし、顔色も悪い。 目が死んでいる。 ああ・・・剛さんと出会う前と、同じ目をしている・・・。 そんなことを考えていたら、電車が目的地に着いた。 ボクはのっそりと立ち上がって、電車を降り、改札を出ると駅前から少し離れた、繁華街へと向かった。 飲み屋が軒を並べている道を、ゆっくりと歩く。 時々立ち止まっては、周りを見回す。 スーツを着て酔っ払ったサラリーマンが、陽気になって大声で笑いながら擦れ違う。 お洒落な店がほとんどないので、女性の姿はほとんど見られない。 その道を行ったり来たりして、30分ほどうろうろした。 暑いことと、走ったことで疲れていたボクは、電柱に寄りかかって座り込んでしまった。 もう一歩も歩けない気がする。 喉乾いた・・・。脱水症状になりそう・・・。 しばらくそうしていると、 「大丈夫?」 と若い男の声がした。 顔を上げると若いサラリーマンが、心配そうにボクを見下ろしていた。

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