63 / 112

せめて 抱きしめて〜転〜 8

スーツから着替えるために隣の部屋に行ってしまったので、ボクは茫然と部屋を見渡す。 リビングにしている部屋の出入り口の横に、キッチンがあり、冷蔵庫や食器棚が見える。 隣接した隣の部屋が寝室らしい。 ボクはテーブルの横に置かれているTVを点けることもせず、ただ黙ってじっと座っていた。 ほどなく着替えを終えてTシャツにハーフパンツに着替えた男が、隣の寝室から現れた。 ボクがじっと座って、自分を見ていることに気付くと、男は人懐(ひとなつ)っこい笑顔を浮かべて、 「ご飯食べた?」 と訊いて来た。 ボクは頭を横に振る。 「お金ないから・・・」 「じゃあ何か取ろうか?ピザでいい?」 「・・・」 無言で頷く。 正直食欲なんかないけど、ここは相手に合わせておく。 男はボクが頷くのを確認すると、電話でピザを注文した。 男は電話を切ると、明るい声で話しかけて来る。 「適当に頼んだから。来るまで30分かかるから、シャワー浴びてきたら?」 ボクは自分が汗だくで、匂いを発していることに気が付いた。 これじゃさすがに犯るの嫌だよね・・・。 ボクが立ち上がると、ずいっとシャツを差し出された。 怪訝(けげん)に思って見ていると、 「それ着て。・・・下は何も履かないで」 と言われた。 そういうことか。 こういう格好好きな人、割と多いな。 ボクはシャツを受け取ると、案内されるままにバスルームに行き、シャワーを浴びた。 一緒に入りたがるかと思ったけど、意外にも何も言わずにリビングに戻って行った。 体を全部綺麗にして、長めの白いシャツを着て、下は裸のままでリビングに戻る。 ピザが既に届いていたようで、テーブルにピザやビールやサラダが乗っていた。 あまり食欲はないけど、客の言う通りにするのを心がけているので、素直にテーブルの横に座った。 Lサイズのピザみたいで一人じゃ絶対に食べきれない量だった。 二人で食べてやっとって感じだった。 ボクはお酒は飲めないので、彼が一人ビールを空ける。 食事が終わると、テーブルの上を片付けて、隣の寝室に連れて行かれる。 優しくベットに押し倒される。 ここまで優しく扱ってくれる人も珍しい。 お店に所属してれば乱暴にされることも少ないけど、ボクみたいに個人だと結構ヒドい扱いをする人は多い。 だから困窮(こんきゅう)した時にしかウリはしない。

ともだちにシェアしよう!