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せめて 抱きしめて〜転〜 8
スーツから着替えるために隣の部屋に行ってしまったので、ボクは茫然と部屋を見渡す。
リビングにしている部屋の出入り口の横に、キッチンがあり、冷蔵庫や食器棚が見える。
隣接した隣の部屋が寝室らしい。
ボクはテーブルの横に置かれているTVを点けることもせず、ただ黙ってじっと座っていた。
ほどなく着替えを終えてTシャツにハーフパンツに着替えた男が、隣の寝室から現れた。
ボクがじっと座って、自分を見ていることに気付くと、男は人懐(ひとなつ)っこい笑顔を浮かべて、
「ご飯食べた?」
と訊いて来た。
ボクは頭を横に振る。
「お金ないから・・・」
「じゃあ何か取ろうか?ピザでいい?」
「・・・」
無言で頷く。
正直食欲なんかないけど、ここは相手に合わせておく。
男はボクが頷くのを確認すると、電話でピザを注文した。
男は電話を切ると、明るい声で話しかけて来る。
「適当に頼んだから。来るまで30分かかるから、シャワー浴びてきたら?」
ボクは自分が汗だくで、匂いを発していることに気が付いた。
これじゃさすがに犯るの嫌だよね・・・。
ボクが立ち上がると、ずいっとシャツを差し出された。
怪訝(けげん)に思って見ていると、
「それ着て。・・・下は何も履かないで」
と言われた。
そういうことか。
こういう格好好きな人、割と多いな。
ボクはシャツを受け取ると、案内されるままにバスルームに行き、シャワーを浴びた。
一緒に入りたがるかと思ったけど、意外にも何も言わずにリビングに戻って行った。
体を全部綺麗にして、長めの白いシャツを着て、下は裸のままでリビングに戻る。
ピザが既に届いていたようで、テーブルにピザやビールやサラダが乗っていた。
あまり食欲はないけど、客の言う通りにするのを心がけているので、素直にテーブルの横に座った。
Lサイズのピザみたいで一人じゃ絶対に食べきれない量だった。
二人で食べてやっとって感じだった。
ボクはお酒は飲めないので、彼が一人ビールを空ける。
食事が終わると、テーブルの上を片付けて、隣の寝室に連れて行かれる。
優しくベットに押し倒される。
ここまで優しく扱ってくれる人も珍しい。
お店に所属してれば乱暴にされることも少ないけど、ボクみたいに個人だと結構ヒドい扱いをする人は多い。
だから困窮(こんきゅう)した時にしかウリはしない。
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