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せめて 抱きしめて〜転〜 34

ボクにわかるのは、こんな状況でも、それでもボクには剛さんしかいないこと。 ボクにとっては、剛さんが一番大事だということ。 自分自身よりも。 ボクの全てを変えた恋情よりも。 狂いそうな独占欲よりも。 本当のことを伝えたいという祈りよりも。 貴方だけが、大事だった。 「・・・ごめんなさい」 ボクは小さく呟いた。 それでも、風に乗って剛さんに届いたみたい。 剛さんが、一瞬驚いたようにボクを見た。 「もう・・・来ません。ごめんなさい」 貴方がそう望むのなら、ボクはそうするしかない。 二度と顔を見たくないと言うのなら、ボクは二度と貴方には会わない。 涙が出そうになる。 お父さんにも剛さんにも、顔を見たくないって言われちゃった。 結局ボクは、誰にとっても邪魔な存在なんだ。 ねえ・・・ボクを必要としてくれる人は、どこにいるの? ボクを必要としてくれる人は、貴方じゃなかったんだね・・・。 ダメ。 まだ、まだ泣いちゃダメ。 ボクは、ゆっくりと頭を下げた。 「ありがとう・・・ございました」 幸せ、でした。 たった半年だったけど、幸せでした。 生まれて来て良かったと、思えた時間でした。 これまでの、これからのボクの人生で、この半年だけが宝物です。 貴方に戀(こい)をしたこの気持ちだけが、ボクが生きた証です。 貴方に会う為だけに、生まれてきました。 ありがとうございます。 こんなボクを、好きだと言ってくれて。 泣いているボクを、抱きしめてくれて。 優しくしてくれて。 包み込んでくれて。 笑ってくれて。 話しを聞いてくれて。 叱ってくれて。 心配してくれて。 本当に。 本当に。 「・・・ありがとうございました」 それだけ言うと、ボクは顔を上げて、にっこりと笑った。 泣くな、泣くな、泣くな。 剛さんは、ボクの満面の笑顔を見て、驚いたように目を見開いた。 ボクは、上手に笑えてますか? ボクは剛さんが何かを言う前に、体を翻(ひるがえ)して、走り出した。 我慢できずに涙が出て来たのを、剛さんに見られたくなかった。 ボクが泣く資格なんてないから。 嘘を吐いていたことは、本当なんだから。 恐くて、嫌われそうで恐くて、言えなかった。 結局、ボクも貴方を信じていなかったんだ。 何があっても、ボクを好きでいてくれるなんて、信じていなかった。 こんな、突っ込まれて悦んでいる変態を、誰とでも犯りたい淫乱を、好きでいてくれる訳ないから。 だから、言えなかったんだ。 だから、ボクには貴方を責めることはできない。 嫌いになることはできない。 ただ、ただ。 泣くことしか、できない。

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