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せめて 抱きしめて〜結〜 17
*
寒い。
何だかいつもより寒いな・・・さっきまで暖かかった気がするのに・・・。
ふっと目が覚めた。
ぼんやりとここ最近見慣れた天井が見えた。
朝か・・・。
もぞもぞと寝返りを打つ。
剛さん・・・。
寝ぼけた頭で思わず手を伸ばして、剛さんを探した。
手には何も触れなかった。
求めていた温もりがそこにはなかった。
ボクは一気に覚醒して、がばっとベットの上に起き上がった。
掛け布団をめくって、剛さんがいないことを再確認する。
剛さんが寝ていた部分のシーツに触れる。
まだ、少し暖かい・・・少し前に帰ったんだ・・・そうか・・・帰ったんだ・・・。
自分でも思っていた以上に、心がどんどん沈んでいく。
きっと、ボクの汚い体と浅ましい性欲に呆れたんだ。
だから、何も言わないで帰っちゃったんだ。
ボクは掛け布団を引き寄せて、頭からかぶって寝っ転がった。
「・・・けほ・・・げほ・・・くしゃん!」
咳とくしゃみをし始めた。
そういえば、昨日から少し風邪気味だったんだ・・・。
剛さんが会いに来てくれた嬉しさで、忘れていた。
そして、剛さんが帰っちゃった淋しさで、思い出した。
「げほん・・・げほっげほっ・・・!!」
喉がいがいがする。
乾燥しているみたいで、喉の皮がひりつく。
なんだか熱が出てきたみたい。
体が熱っぽくて寒気がする。
ボクは布団の中に隠れたまま、裸の自分の体を抱きしめた。
病気になるのが、一番嫌だ。
風邪を引くと熱が出やすい体質で、子供の頃から変わっていない。
小さい頃、本当に小さい頃は、母が看病してくれた。
傍にいてくれた。
そのうち放っとかれるようになった。
女優だから、風邪を感染(うつ)されると困るって。
父も会社があるから、感染らないように、絶対に近寄らなかった。
いつの頃からか、熱を出したら自分のベットで、たった一人で寝て、苦しさや淋しさ、哀しみを噛み締めていた。
また、同じ。
たった一人になっちゃった。
また一人で我慢して、泣きながら眠るしかない。
ボクは熱がどんどん上がってくるのを感じた。
涙が、目尻を伝った。
淋しい、淋しい、淋しい、淋しい、淋しい、淋しい、淋しい、淋しい。
誰か・・・傍にいてよ。
一人にしないで。
苦しい、苦しい、苦しい、苦しい、苦しい、苦しい、苦しい、苦しい。
誰か助けて。
剛さん・・・助けて・・・。
ボクは、泣きながら眠りに落ちていった。
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