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せめて 抱きしめて〜結〜 23
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それから、ボクと剛さんは一緒に暮らし始めた。
ボクの大学と警察署からも距離が近いので、通うのが楽だったことと、両親が買った部屋なので、家賃がかからないので、この部屋で暮らすことにした。
何もなかった殺風景な部屋に、タンスや本棚が増えて、小物を入れるチェストも買った。
キッチンにも食器棚を置き、色々な食器を2つずつ揃えて入れた。
フライパンやお鍋も、調味料も増えていった。
食事用のテーブルと椅子も買ったし、リビングにはテレビとソファも導入された。
人が生活する部屋へ、変わっていた。
ボクは完全にウリを辞めて、普通に大学に通い、勉強をしていた。
友達はどうやって作ったらいいのかわからないから、相変わらず一人だったけど、それでも最近少し会話をする人が数人できた。
友達とまでは呼べないけど、それでも大きな進歩だった。
剛さんは元気に仕事をしていた。
キャリア組といっても、新人は警察署で経験を積んで、その内本庁へ異動するらしい。
剛さんは勉強になるといって、元気に現場を走っているらしい。
体を動かすことのほうが好きだから、現場が性に合ってるといって笑っている。
忙しい剛さんを支えるために、ボクは料理を覚えたし、掃除も洗濯もしていた。
ワイシャツもよれよれなの着せられないから、アイロンだってちゃんとかけている。
靴もピカピカに磨いて送り出していた。
剛さんと一緒に暮らして、人並みの生活を始めたボクは、少しずつ太っていた。
がりがりに痩せていたので、剛さんは嬉しそうに抱き締めてくれる。
それでもまだ足りないみたいで、もう少し太れと言っている。
柔らかいほうが好きだと言われた。
大学に通うのと同時に、料理教室にも通っていた。
剛さんに美味しいご飯を食べさせたいのがきっかけだったけど、今は料理が面白くなって、将来は料理の仕事をしたいと思い始めていた。
こんな風に将来のことを考えるようになるなんて、思わなかった。
剛さんと一緒にいられるから。
剛さんが、ボクの全てを変えてくれた。
考え方も、生き方も、心も体も、全部、全部。
剛さんに染め変えられていく。
それが心地よくて、嬉しくて、絶対に手放したくない。
今ならわかる。
ボクは本当に子供だった。
両親に放っておかれたせいもあるけど、本当に中身が子供のまま、体だけが大きくなっていた。
今だったら、もうちょっと両親とうまく付き合える気がする。
自分の感情をむき出してつっかかったりせず、両親の気持ちも考えて話しができる気がする。
今度、会いに行ってみようと思う。
少しだけ成長したボクを見せに。
今は大好きな人と、大切な人と一緒にいるから、幸せだと。
生まれて来て良かったと。
ありがとうと。
伝えにいきたいと、思う。
今日もボクは剛さんのためにご飯を作る。
剛さんの好きなハンバーグにした。
ボクには少し小さいのを、剛さんには大きめのを。
美味しいと言って、全部食べてくれる剛さんのために。
お肉だけじゃなく野菜も食べて欲しいから、サラダも作る。
レタスを千切りながら洗っていると、玄関のチャイムが鳴った。
時間は夜の8時すぎ。
剛さんが帰って来た。
ボクは濡れた手をエプロンで拭きながら、玄関へ飛んで行った。
鍵とチェーンを外す。
扉を開けて、にっこりと微笑んだ。
「お帰りなさい」
「ただいま」
Fin
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