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第37話

それから何日間かの間、天城達は代わる代わる呼び出されてはさらに質問や検査を受けた。 始め、警備の兵士達や収容所の職員は、彼らに対しかなりの警戒心を見せていた。だがやがて、とうに覚悟を決めている三人が抵抗したり暴れだしたりすることはないとわかったらしく、その緊張も解けてきたようだった。 そのうち、三人はまとめて呼び出された。 普段通りに手錠をかけられたが、なぜかいつも行く小部屋は通り過ぎてしまう――その状態のまま、外に待っていた車に乗せられた。 いよいよ処理場へ行くのだろう、と天城が思った時、音羽が呟いた。 「――最後は三人一緒か」 「別々より良かったよ」 天城が言うと音羽はこちらをちらりと見た。 「こういうのを腐れ縁と言うのだろうな」 天城は笑った。 「腐ってるかどうかは知らんが、カビぐらいは生えてそうだ。ずっと暗いとこにいたから」 車窓から外を眺めていた相模が言う。 「表の景色見るの久しぶりだなあ……こんな明るいモンだったっけ……?」 「ああ……眩しいな。見納めか……」 天城は目を細めて呟いた。この明るく青い空の下、どこかで――ノアは元気にしてくれている。……そう信じたい―― 車はそのうち大きなビルの前に止まった。促されて三人が降りると、そこにはカメラを構えた大勢の人たちが集まっている。 押し寄せてきた彼らに三人は囲まれそうになり、警備員達がそれを押しとどめた。ナニがなんだかわからず唖然としたまま三人は建物の中に入った。 エレベーターで上がり、執務室という札が下がった部屋に連れて行かれた。 そこへ入った時、収容所から一緒に来ていた革命軍兵士が三人に近づき、驚いたことに手錠を外してしまった。兵士は何も言わず部屋の入り口まで退き、そのままそこに立っている。 状況が読めず三人が顔を見合わせていると、後ろからいきなり声がした。 「天城さん!」 「ノっ――ノア!?」 奥に繋がる部屋から飛び出してきたのはノアだった。ノアはそのまま天城の元まで走り寄ってくると、首にかじりついた。 「え!?なんだ!?どうなってんだ!?」 信じられず、唖然としつつも、天城は飛びついてきたノアの身体をしっかりと抱いた。 「長いこと拘束してすまなかったね――専門家に依頼して、君達を収容所から出しても安全かどうか判断してもらうのに時間がかかっていたんだ」 ノアの後ろから背の高い男性が現れてそう言った。 「私は岩崎。この星の臨時自治政府の責任者だ」 彼は三人に歩み寄って右手を差し出した。順番に握手しながら言う。 「君達は、私の家族の命の恩人だ――遅くなったが、どうか礼を言わせてくれ。収容所で酷い扱いを受けなかったかい?」 「いや別に……」 相模が答えた。実際には、寝床も無かったし食事も不規則にしか与えられなかったし、明かりも殆どない狭苦しい場所に長期にわたって押し込まれていたしで、人間であればかなり過酷なはずの状況だった。だが彼らには元々人道的に扱われたいという欲求が無いため、そうとは気付いていなかった。 「天城さん!」 ノアが弾んだ声で言う。 「天城さんたち、収容所から出られたんだよ!革命軍の人たちが許可してくれたんだ!」 定期的に専門家の面談を受けることや、所在地や行動を常に革命軍が把握すること、万が一、人を襲ったり問題を起こしたりすれば、直ちに収容所へ戻され解体処分になるという取り決めなど――様々な条件付きではあったが、三人はひとまず解放されたのだった。 収容所で繰り返し行われた面接で――天城が独断で、彼にとっては敵側に当たる避難民の救助活動を行ったこと、音羽が極端に攻撃性の低い性質を持っていること、天城は例外として――政府が製造する人造兵には通常与えられていないはずの「可哀想」という認識をなぜか相模が自主獲得したらしいこと等がわかっていた。革命軍の雇った人造生命を研究する専門家達はそれらの調査結果に高い関心を示している。 そして審議の結果、政府所有の人造兵とはいえ、使役されるため作られ、理不尽な扱いを受けていたというのはノアのようなバイオペットと同じであり、人造生命体の権利を認めるのなら、彼らのような兵士たちにも自主的に生きるチャンスを与えるべきだ、という事になったのだった。 岩崎が言った。 「君達には我々革命軍の矯正訓練を受けてもらう。新しい価値観を受け入れるのは難しいかもしれないが、なんとか頑張ってくれ。君達が出す結果次第では、今まではどうしようもなくて解体処分にまわしていた政府軍所属の人造兵の扱いも変わってくる」 「ええと……結局捕虜なんだよね?あんた達に従えって事でしょ?」 顔をしかめて考え込みながら相模が訊ねた。岩崎は答えた。 「今はそう思うのも無理はないが――私は君達が必ず、我々革命軍の理念を理解してくれると信じているよ。まず……今まで君達を一方的に支配していた政府と我々とは違う、という所を見せよう。私は個人的にも、君達に礼をしたいしね。何か欲しい物はないかい?新生活を始めるお祝いに用意しよう」 「革命軍は、戦績出してないヤツにもご褒美くれるってこと……?」 「まあ……そういうことにしておこうか」 相模は暫く考えて言った。 「……じゃあさ、俺、今度は独居房がいいな。兵舎じゃ大部屋に詰め込まれてたし、その後はずーっとこいつらと一緒だろ。毎日おんなじ面子で飽きちまってるんだよね」 岩崎は苦笑した。 「独居房に入れたりなどは……いや、まあいい、わかった。君は?」 音羽に訊ねる。音羽は即座に答えた。 「ポータブルコンピューターは希望できますか?」 「もちろん。さて」 岩崎は天城を見て微笑んだ。面接で、相模と音羽の証言により、避難民の救助は、元々は衛生兵になりそこなったという彼の意志だったことがわかっている。天城がいなければ、娘も、他の避難民も助からなかったのだ―― 「天城君、きみの番だ」 「ええと……」 天城は考え込んだ様子で呟いた。 「現物は見たことないんですけど……報奨金代わりに貰える、ネコ買えるようになる薬って、ありますかね……?」 ノアはどきりとして天城の顔を見た。 「ネコを……?ああ!」 岩崎は一瞬考え込んだが、天城と抱き合っているノアを見てピンと来たようだ。 「わかった。用意しよう――好きなだけね」 笑みを浮かべた岩崎にそう言われて目配せされ、ノアは頬を染め、慌てて俯いた―― おしまい この話は実はパート2があるので、そちらへ続きます!

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