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第36話

宙港で囚われた後、収容所へ送られた天城達は、やけに頑丈に作られた狭い部屋へ入れられたきりずっとほったらかしにされていた。 鉄のドアに取り付けられている細い隙間から、たまに食料を載せたトレイが押し込まれるきりで誰も姿を見せない。窓は鉄壁のずっと上の方に小さな物が一つあるだけで、届かないので外も見えなかった。 「ああ……なっげえなあ……いつ処理されるんだろうなあ、俺達」 硬い床に寝そべり、さほど悲愴にも聞こえない声で相模が言った。 「こんな退屈な目に遭わされるなら、宙港で暴れりゃ良かった……即射殺してもらえたのに。班長のせいだぞォ?指示しないから」 「ノア抱いてたし、他の乗客だってすぐ側にいたし……仕方ないだろ。巻き込みたくなかったんだ……」 天城は答えた。 「ま、そうだよな、仕方なかったよ」 相模が答えた。天城は驚き、意外に思って寝転がっている相模をじっと見つめた。 「あ?なんだよ?」 耳をほじっていた相模が訊ねる。 「いや、お前が……俺に賛同してくれると思わなかったから」 「賛同っつうかさあ……アンタが言う、カワイソウ、だっけ?ソレちょっと、わかった気がしたからさあ……」 「マジかお前!?」 天城は嬉しくなって叫び、相模に近寄った。 「いや合ってるかわかんねえよ?わかんねえけど……捕まる直前、ノアが随分ひどい咳してたろ?あれ見てなんかこう……イヤぁな感じがしたんだよ。けどそれ、上官に怒られた時とかのイヤぁな感じとは違っててさ……で、ノアの……身体が早く治りゃいいなと思ったんだ。そしたらあんな苦しそうに咳してるとこ、見なくてすむだろ?」 「そうだよ、それが可哀想ってことだよ!ノアが苦しいと俺も苦しい気持ちがするんだよ!な、そうだろ!?」 「そんな興奮しなくていいって……うるさいよ……」 相模は顔をしかめて呟き、むこうを向いてしまう。 「あ、わかった」 急に音羽が呟いた。 「ナニ!?音羽!お前も分かったのか!」 尋ねた天城に、音羽は淡々と答えた。 「いや、違う。分析途中だったデータコードが解読できたんだ」 「今?」 「今」 音羽は頷いた。彼の仕事道具はとっくに取り上げられているが、記憶を頼りに頭の中で分析を進めていたらしい。 天城は呆れて彼に言った。 「どうりでずーっと黙ってると思った……けど今分かったって……作戦本部にゃ届けられないじゃんよ……」 「問題か?」 音羽は、何を言うのかといった表情になった。 「気になるから続けていたまでだ。本部と連絡がつかないのは承知している」 彼は命令されたからではなく、自分の純粋な欲求でデータ分析を続けていたらしい。全く、仕事中毒だよなあ、と天城と相模は同時に呟いた。 と、突然……ドアの外から声がした。 「貴様達の中で一番階級の低い者、こちらに来い!」 「やっと来たか……はいはい、俺ですよ……」 相模がぶつくさ言いながら身を起こした。音羽が訊く。 「自分が先に行こうか?階級的には同じなんだし、わかりはしないだろう」 「いや、いいよ」 相模は立ち上がって伸びをした。 「お前が連れてかれるの見るのはイヤだし。『カワイソウ』だからな」 食事のトレイが差し込まれる隙間が、少し広めに開けられた。 「ここから両手を出せ」 言われた通りにした相模の手首に手錠がかけられた。 扉が開けられ連行される時、相模は拘束された両手を、中に残る二人に軽く差し上げて見せた。 再び扉が閉じられた。天城は床に座り込んで両手で顔を覆った。こうなる事は分かりきっていた。だが―― 顔を覆ったまま天城は言った。 「音羽――すまんが、次、俺が行っていいか?お前が引っ張り出されるとこまで見ちまったら――じっとしていられると思えねえんだ――」 「かまわない」 音羽は静かに答え、頷いた。 暫く時間がたち、外に足音がした。来たか、と思って天城が立ち上がりかけると、いきなり扉が開いた。 おかしいな?さっきと手順が違う?首を傾げた天城の目の前に、これまた首を傾げながら相模が姿を現した。 「相模!?あれ!?お前、てっきり……解体に……」 「いや、俺だって……?」 先ほどと逆のやり方で、相模を連れて来た兵が手錠を外した。相模は妙な顔のまま部屋の中に戻ってくる。 「次の者、ここへ来い」 命じられて天城は訳が分からないまま立ち上がった。なんだよ?まだ解体処分じゃなかったのか……? 武装した兵士に挟まれて、天城は通路を歩いた。 やがて、白衣を着た小柄な男の待つ、小さい部屋に入れられた。そこで白衣の男から色々な質問をされ、何か検査のような物を受けて、天城は相模と同じようにまた部屋へ戻された。 次に音羽が連れて行かれたが、やはり同じように戻ってきた。三人は部屋で不審げに互いの顔を見合わせた。

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