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第58話
「体大丈夫?ごめんね…ちょっとやり過ぎた…。」
俺がつい陽子ちゃんに伸ばしてしまった手を絡め取りながら、星野が抱きついてくる。後で謝るならするなよ…。しかし、
「…宗介………悪かった…。」
この変態は置いといて、陽子ちゃんが言う通り偏見は良くない。俺の頭には、吉崎が浮かんでいた。自分はステレオタイプな所があるし、もう少し星野とちゃんと向き合っても良いのかもしれない。
「うん。もう、しないでね。」
星野がにっこりと微笑む。
うん。きちんと、向き合ってみよう。
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「やめろ、変態っ!ちょっ、触るなっ!!」
しかし、そんな綺麗に話は進まない訳で。星野は相変わらず変態で、俺もまだ完全に星野を受け入れるには至らない…。ていうか、受け入れようとする度に星野が変態過ぎて、つい引いてしまう…。
俺は星野の家で、仕事帰りに纏わりつく星野に怒った。
「だってさ、昇進のお祝いしてくれるって言うから…。」
星野はしゅんとする。…嘘くさいな。
星野はこの春から経営企画部に転属となった。それだけでも栄転だが、それに加え、同期の中でも1つ抜きん出て昇進した。元々企画部に片足突っ込んでいたし、まぁ当然のことだろう。皆星野の仕事ぶりは知っていたので、お祝いムードだった。そしてそのお祝いムードのまま、星野は俺にもお祝いを要求してきた。
「だから、酒奢ったろ?」
「え、こんな……3千円位のワインで…」
星野が信じられないという顔をした。酒を飲まない俺からしたら、それでも高いんだけど…。
え?なに?安かったの?
「じゃ…、じゃぁ、宗介は何が欲しかったんだよ?」
俺のその問いに、星野は急ににんまりと笑った。嫌な予感がする。
「和姦がしたい。」
「はぁ?」
え、キモっ。
言い方…。言い方がもう変態サイコ……。
「裕太はいつも嫌々です〜って雰囲気だから、もう少し……和やかに、甘い雰囲気で、ラブのあるイチャつきがしたい。つまり、和姦!!」
「はぁ…」
本来ならば突っぱねる事案だ、しかし…ちゃんと向き合うって誓ったしな…。俺は少し考えて、星野の話に頷いた。
「けど、それってどうやるの?俺、初体験もままならないまま、お前に強姦された事しかないから、分からない。」
「えぇ!酷い言いよう…。」
星野がじとりと俺を見る。仕方ないだろ。事実だ。通報されてないだけ有難く思って欲しい。
「ん〜、裕太が、もっと乗り気で、俺を気持ちよくさせてくれるような…。」
「ふーん…。」
「空気感は、甘めで。可愛く、甘えてくるような……。」
よく分からん。しかし、つまりは俺が乗り気でやれっていう事だろう。演技力の問題か。
「いいけど。でも、回数にはカウントするからな。とりあえず、明日も仕事だし、やるとしても土日だな。」
「え〜、そういうところだよ〜。」
星野は尚もぶーぶーと何やらほざいているが、俺は無視をして寝室に引っ込んだ。
いちいち付き合ってたららちがあかないからな。
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「CMC開発本部 第2ユニットの山本です。よろしくお願いします。」
「ん?あれ?山本って、確か星野の同期?」
「え?そうなの?」
会社の会議室、新しいプロジェクトのキックオフ会議で俺が自己紹介すると、周りがざわざわとしだした。
「そうです!」
「………はい。そうです。」
その中で、爛々と目を輝かせ星野が勢いよく頷いた。俺も遅れをとるが、渋々と頷く。
「そうかそうか!それは良かった。部門間の連携も、2人がいたらスムーズですねっ。」
「そうですね。経営企画部はどうしても、他部署との距離感がありますからね〜。」
それを聞いて、企画部とうちの部の部長がニコニコと話しだす。しかし、俺は1人居心地が悪い。まさか……星野と同じプロジェクトになるとは…。折角星野が部署移動してからは、フロアも別になり安泰の日々だったのに…。毎度、俺の安泰は長く続かない…。
「では、とりあえず、うちの部の期待のエースの星野から、プロジェクトの概要を説明させます。よろしく、星野。」
「はい。概要は、先にメールで配布した資料の2ページ目に纏めています。まずはそちらのご準備をお願い致します。それでは…」
資料を淡々と説明していく星野。久々にまともな姿を見た。真剣な顔で説明し、質問にも端的に答える。これが家ではあんな変態だとは、皆夢にも思わないんだろうな。
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