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第10話
「んだよ、俺のより早いじゃん」
「内田、黙って寝て」
「この状況で黙れるかよ」
「じゃあ黙らそうか?」
ぱちりと目を開けた榛名が、少し顎を上げ、俺の唇を見つめる。
「ここで、しちゃっていいの? 内田はファーストキスだろ?」
「んなの分からないだろ」
「あれ? 違った?」
「……っ、もう寝て。もう無理だ」
耳の先まで熱がこもっているのが分かる。今の俺、とんでもない顔をしているはず。
ドキドキしているくせに、特に心音以外に動揺を見せないで俺のことを笑う榛名に腹が立ってきた。繋いだ指先に力を込める。
「覚悟しとけよ。起きたらただじゃあ置かないからな」
「そこまで言うならやってみてよ」
「俺だってやろうと思ったらできるんだから」
「何をしてくれるんだろう」
榛名が俺の肩から頭を起こし、周囲を確認した。つられて俺も乗客を見る。
「内田、見なよ。もうほとんど人がいない」
「そうだけど、だから何だよ」
「いや、やっぱりいいかなって」
だから何が? と答えようとしたその言葉を、榛名に食べられた。一瞬だったけれど、分かる。唇が、柔らかかった。
「覚悟するのは内田だよ」
「……っ」
「ここからはもう引かない。俺は押すだけだから。内田はそうやってプルプルして、可愛い顔して俺でいっぱいになっていればいいの」
「榛名っ」
今日は特別に俺の肩を貸してあげると、榛名は俺の頭を撫でた。ゆっくりと引き寄せられ、榛名の肩に頭が当たる。
俺は一体何の覚悟をすればいいのか。
この胸の高まりが、榛名を気にしてばかりだった事実が、こうして話せて嬉しいと叫ぶ心が、もっと触れてほしいという期待が。
恋だと、自覚して。それで。
それで、榛名も。
「内田が好きだよ」
「もうキャパオーバー」
「そういうとこも、好き」
「頼むから黙って」
肩を貸して3ヶ月。貸さなくなって1ヶ月と少し。
そうして今日、俺は恋を知った。
悔しくて、榛名の肩に顔を埋める。優しい石鹸の香りがして、それがまた心をきゅうっと締め付けた。
END
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