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第9話

「どうしてだろうね。俺が突然この車両に乗って、当たり前のようにお前の肩を借りて。それでいて何事もなかったように振る舞って、お前がぐちゃぐちゃに悩んでくれたらなって思っていたのは」 「……」 「毎朝俺のことを気にして肩を貸してくれる内田のこと、ちゃんと知っていたよ。さっきだって、わざとやった。お前が戸惑いながら肩を貸してくれた時、やっぱり可愛いなって思ったよ。好きとか、可愛いとか、そういう理由、何なんだろうね」 榛名が再び俺の肩に頭を預けた。さらりとした髪が頬に当たる。 「ははっ。内田の心音でかいなぁ。肩に寝てるのに、ここまで伝わってくる」 「だって」 「だからお前の、そういうとこも好き」 「なんで……」 「分かっているくせに」 榛名が目を瞑る。この状況で寝るか? と驚いたが、すぐに分かった。榛名は寝ていない。動揺している俺をゆっくりと楽しんでいるだけだ。 「性格悪すぎだろ」 俺がどんな思いでこれまでを過ごして、それで今どんな思いでこんなに戸惑っているのか、それが榛名にとっては楽しいことなのだから。 「俺、怒ってるよ」 榛名の口角が上がっているように見えた。 「俺が許すと思う? 今日のこの瞬間まで、俺のことを生活の背景みたいな、心がないような扱いをしていたくせに。お前と仲良くなんてやらないからな。俺のこの気持ちで、そんなふうに遊ぶお前となんか。急に名前を呼んだりして、可愛いだとか、好きだとか、新手のいじめだろ。次の嫌がらせだ。そうに決まっている。そうじゃなきゃあ、……っ!」 溢れ出る気持ちを整理できずにそのまま口にしていたら、それを黙らせるかのように榛名が、膝に置いていた俺の手に自分の指を絡めてきた。 柔らかい肌が、俺の手に吸い付く。 じわりと汗が吹き出た。 「もう黙って。学校まで寝かせて」 「榛名っ」 「俺の大切な時間なの。やっと、取り戻せた」 何も言い返せなくなった。余裕ぶっていると思っていたら違った。榛名の指先から、心音が伝わってくる。

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