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第1話
お父様が入院して僕の周りは物凄く慌ただしくなった。お母様はオロオロするだけだったし、姐御と呼ばれている栞お姉様のお母さんは若頭とかと密談していたり僕のことを思いっきり邪険に扱ったりしていた。
お父様がこの家に居る時には大奥様とか呼んで猫なで声で話していたのとはまるで別人になってしまったみたいで、ただただ驚きだった。
そしてあの運命の夜――正確には夕方だったけど――僕の部屋に乱入して来た男衆を見て物凄く嫌な感じを受けた。
姐御と言って慕っている人間は一応、把握していたのだけれどその全員が僕の部屋にノックも声掛けもせずに入って来たのだから。
そして、警察官が持っていそうな頑丈な手錠で手を拘束されてしまって、足とかで必死に抵抗したのだけれど、それって単にお母様しか助けが来なかった。お母様はお茶とかお花、そして料理とかしか出来ない人だから何にも出来ずにただ大きな目を悲しそうに見開いて「洋幸をどうするんですか!?」としか言えなかったし。昔風に言うなら若頭だが、今は副社長と呼ばれている人が何だか舌なめずりをする感じで僕の全身を眺めている。
「洋幸坊ちゃんが居ると跡目が回って来なくなるとお嘆きの方がいらっしゃいましてね。
多摩の山奥に埋めるか、東京湾にセメントごと投げ込むか考えたんですよ。
しかし、今はそういう時代でもないので、洋幸坊ちゃまを『女』になったと組の内外に大々的にお披露目すれば、跡目の話は消えるのです。
そちらの方がクレバーかつスタイリッシュな現在の会社に相応しいと思いませんか?」
「女」というのがどういうことかは直ぐに分かった。
お父様に連れられて時折覗きに行く――多分取締役社長とは名ばかりの父の部下とお金のこととかを話しているんだと思っていたけど、僕はその席には若すぎるとかで入れて貰ってない――ゲイバーで話すようになったユリさんが好きな「行為」を無理やりにされるんだな……と思った。
「お尻の穴に挿れて貰ったら滅茶苦茶気持ち良い!もう、病み付きになっちゃうのよ」と他人事のように聞いていた。
ただ、朝のトイレで出すモノよりも太いアレを穴に挿れるだなんて考えただけで痛そうだ!とか思って聞いていた。
そして、僕が生まれ育ったのは普通の家とは全く違う。いわゆる広域に指定されている893の家に生まれてからずっと学校にも行かずに家庭教師に勉強を教えて貰ったりお母様の手伝いをして食事を作ったりと物凄く狭い世界で生きてきた。
だから世間のことはあんまり、いや全然かも知れないけど……分からない。
ただ「別荘」と呼ばれている刑務所の中では女性が居ないので、若い男性とかが「そういう」ターゲットにされたとかはまだ笑って許される範囲内だけれど「男気」とか「男の意地」が服を着て歩いているような「この」世界では「された人間」という刻印が死ぬまで消えない。当たり前だけれども組長は「女」にされた経験があれば99%はなることが出来ない。
まあ、僕の場合は跡目とか正直どうでも良かった。というより「出入りだっ!」って血相を変えて相手の組に乗り込んでいくとか出来そうにないし、本を読んだり勉強したりする方が好きだった。
「大奥様譲りのこの顔に、この身体……。ショーを開く前に味見したいですね。
乳首も綺麗なピンク色だし、この穴もキュッと閉じてはいますけど、中はベビーピンクって言うんですか?綺麗な色だなぁ」
お母様がお茶会の時に着ていく――流石にこの年になると着替えの場面は見ない程度の分別は有ったけど――襦袢姿のようなモノに無理やり着替えさせられた。下着とかは一切ナシで。
「男を銜え込むのは初めて……だよな?
なーに、最初は物凄く痛いらしいし、下手すりゃ括約筋とかいう筋肉に傷がつく。知り合いのもぐりの医者に聞いたんだけどさぁ、贅肉とかの肉ってさ、治りも早いし痛みもそれほど酷くはないんだってさ。――まあ、医者の場合は『少し痛いですよ』とかゆって、物凄く痛かったりするじゃん?――筋肉を傷付けたら物凄く痛い上にさ、朝とかトイレで大をする度に激痛で大変なんだってさ」
上下に分かれたジュバン状の着物しか纏っていない僕は乳首とかお尻の穴、そして前を確かめるような感じで触られている。
そんなことが気にならないほどお尻の穴にあんなモノを挿れられるのかと思うと震えそうになるのを必死で耐えていた。
ついでに逃げ道とかがないかも。
「お!前も可愛いなぁ。オレのを見るか?ほら真珠が5粒も入っていて、入れる時はマジ死ぬかと思うほど痛かったけどさ、今じゃ女がヒイヒイ言って喜んでくれるんだぜ。泣きながら潮を吹いちゃったりして……。
ほらこんなにデカいのはそうそうないだろ?」
男らしさが美徳の世界だと言うコトも知っていた「積もり」だった。そして男性の象徴はやっぱりコレで……。真珠入りとかいうおっきなモノをこれが通常の状態なら興奮しておっきくなったらどんな大きさになるんだろうと思いながら見ていた。
多分、現実感がなさ過ぎて頭の回路がどっかに飛んで行ってしまったのかもしれない。
真珠入りのアレをお尻の穴に挿れるなんて絶対無理だと思って身体が竦んでしまっている。しかも恐怖のせいで鳥肌まで立っているし。
「おー可愛いね。ピンク色の乳首がさっきよりピンと立っている。お尻の穴はショーまで取っておかないと、組の幹部とか他の組長、そして大枚の入場料を支払って『初物掘り』を見に来てくれるお客さんの期待に応えなきゃな……」
僕を取り囲んでいるのは普段は遠くから「ご苦労様ですっ!!」とかの挨拶しかしない人なので名前は分からない。
副社長というか若頭はこの場には居なかった。きっと色々な組とか、ウチの組織の主だった人間を集めているんだろう。僕が「女」にされるショーを大々的に開催しようとして。
ペラペラの襦袢をはだけられて、乳首とか僕の前とかをねっとりと触られたんだけれど――そして女の人は胸が感じる部分だという知識は有った――気持ち悪さしか感じなかった。
「そーんなに身体を硬くしていると余計痛い目にあっちゃうよ、洋幸ぼっちゃん。
ああ、ヒロユキ名前じゃなくてさ、源氏名を付けないとな。
後で副社長に相談してみよう」
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