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亜利馬、大ピンチ!
合宿二日目。
今日は昼から獅琉と大雅、そして俺の三人での撮影が入っている。大雅と俺はインヘルのサイトに載せるもの、獅琉は自分のDVDのプロモーション動画。同じ時間に竜介の家を出て、帰りに夕飯の買い物をして帰る予定だ。今朝作り過ぎた俺のホットケーキがまだ残っているから、間食代わりくらいにはなるだろう。
「じゃあ後でね。亜利馬と大雅、もし早く終わったら先に帰っててもいいよ。俺買い物して帰るから」
「そしたらメールしときますね。獅琉さん頑張ってください!」
「亜利馬たちもね」
五階の事務所に顔を出してから、獅琉は六階にある第一動画部屋へ。俺達は七階の第二写真撮影スタジオへ。俺達の前に撮影していたモデルがまだ少しかかるとのことで、取り敢えず休憩スペースへ移動し、大雅に言われて自販機でジュースを買ってあげた。
「大雅と二人で撮るのも久し振りだなぁ。サイトのサンプルギャラリーに乗せるんだって」
「温泉で撮って以来……」
「あれ楽しかったよね、冬になったらまたみんなで温泉行きたいなぁ」
「夏も」
「うん、夏も海とかリゾート的な所行きたい。大雅って日焼け肌も似合いそうだよね。それに獅琉さんのDVDで海での野外撮影とかやってるの見て、楽しそうだったよ」
話しているとしばらくして、撮影アシスタントのスタッフさんが俺達を呼びに来た。
「遅れてすみません。大雅くん亜利馬くん、お願いします」
休憩スペースから撮影スタジオへ向かう途中、丁度スタジオから出て来たモデルと鉢合わせした。
「あ……」
フリーズのメンバー、怜王だ。
「怜王さん、お疲れ様です。先に撮影してたの怜王さんだったんですね」
「………」
威圧感のある背丈と体のデカさ、冷たい目、カラスよりも黒い髪、服。怜王は無言で俺達の横を通り過ぎて行った。
「あんまり、喋るの得意じゃないのかなぁ。出会った頃の大雅みたい」
「……俺、もう少し喋ってた」
「怜王さんも慣れたら喋るようになるのかもね」
……普段は手のかかる弟みたいな大雅だけど、撮影の時は通常の五倍は男らしくなる。眠そうな目に鋭い光が宿った時の大雅は、獅琉とは違うタイプの美しさを発揮するのだ。
獅琉が「甘い王子様」なら、大雅は「凍てつく貴公子」といったところだろうか──どちらにしろ、撮影の時の俺は大雅にリードされっぱなしだ。
私服からスーツ姿、ワイシャツ姿。どれも大雅に似合っていて、一番近い距離でその姿を見ているとこっちまでドキドキしてしまう。
「大雅くん、いいねぇ~。すっごいカッコいい!」
興奮しながらシャッターを切る木下さん。
「亜利馬くんもいいよ。可愛い顔してる」
取って付けたようにではあるが、一応俺のことも褒めてくれている。男に『可愛い』はどうなのかなといつも思うけれど、悪い意味ではないと分かっているから敢えてそれには何も触れない。
「それじゃあ、休憩したら後半はヌードで撮ってこうか」
撮影自体はスムーズに終わり、俺達の今日の仕事もこれで終了だ。十七時少し前。思っていたよりも早い時間に終わることができた。
当然ながら、獅琉はまだまだかかりそうだ。
「それじゃ、先に竜介さんち帰ってようか。コンビニ寄ってく?」
「……亜利馬」
「ん?」
大雅がスマホを握って俯いている。何だかそわそわしている様子で、顔が若干赤い。大雅の取扱説明書を読まなくても分かる――これは、竜介が良い方へ絡んでいる時の顔だ。
「もしかして、この後竜介さんと出掛ける約束でもした?」
「………」
こくりと頷いた大雅の背中を叩き、俺は満面の冷やかし顔で言ってやった。
「早く言えばいいのに! もう、妬けるなぁ!」
「……ごめんね。ちょっと買い物するだけだから、夕飯までには帰る」
「帰らなくていいよ! ……竜介さんの家だけど」
大雅が嬉しそうだと、俺まで嬉しくなってしまう。既にビルの前で竜介が待っていると言われて、俺は大雅をエレベーターの中へと押し込んだ。
「山野さんへの帰宅連絡は俺がやっとくよ。トイレも寄ってくし」
「ありがと、……亜利馬」
「竜介さんによろしく。そんじゃ、また後で!」
エレベーターを見送ってから、俺はまず山野さんに撮影が終わった旨を伝え、獅琉に先に帰ってるということを伝え、トイレで用を足して、手を洗いながら考えた。
「俺が帰るまで潤歩さん一人か……好き勝手に飲んでそうだなぁ……」
早く帰らないと。シロとクロも待っている。
トイレを出て、俺もエレベーターに乗ろうとした――その時。
「ブレイズの亜利馬」
「あっ」
背後から名前を呼ばれて立ち止まる。その呼び方をするのは夕兎しかいない。そう思って振り返ったが、そこには夕兎ではなく先ほど廊下で会った怜王がいた。
「怜王さん。お疲れ様です」
「……お前達に話がある。付き合え」
低く冷たい声で言って、怜王が俺に背を向け歩き出す。
「あ、あの、話って……?」
怜王が入った部屋は、機材室の横にある倉庫だ。どうして倉庫の鍵が開いているのかなんて考える暇もなく、「早くしろ」と言われてしまった。
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