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亜利馬、落ちた先はセクハラ大地獄◆2
「兄貴の俺は、別に好き勝手してればいいんだよな? 気まぐれに末っ子を弄ぶ感じでよ」
午後になって撮影から帰ってきた潤歩が、冷蔵庫にあった竜介のジンジャーエールを勝手にがぶ飲みしながら悪戯っぽく笑う。
「……言っときますけど、好き勝手にも限度があるんですからね」
「安心しろ、俺はノーマルだ。……まあちょっとばかり、俺の中のサディズムを発揮させてもらうけどな」
「潤歩さんは刑務所帰りの放蕩息子っていう設定です、俺の頭では。それかニートのゴクツブシ」
「ざけんな、俺様はインテリジェンスな大学生だ。年齢から考えて別におかしくねえだろ」
似合わないなぁ、と心の中で苦笑する。確かに潤歩も獅琉も一般的な道を歩んでいれば、今頃大学生になっていたかもしれないけれど。
「大学楽しかった? 兄貴」
「まあまあだな。今日も色々勉強してきたぜ」
「色々ってどんなの?」
「……数学とか、国語とか、そういうやつだ」
「………」
具体的なことが何一つ分からない大学生なんて、この世に存在しない。ジト目で彼を見ていると、顔を真っ赤にした「兄貴」に頭を叩かれてしまった。
「馬鹿にしてんじゃねえぞ、酒も飲めねえガキのくせに!」
「そ、それは関係なくないですか……」
潤歩との兄弟劇なら演じず素のままでもいけそうだけど、それだと結局ケンカばかりになってしまいそうだ。
そして――
「……亜利馬。いい子にしてた」
「た、大雅お兄様」
「俺が学校行ってる間、ちゃんと俺の言う通りにしてた」
「うん、してたよ」
「それじゃあ、ズボン下ろして見せて」
言われるままズボンを下ろして寝転がり、大雅の前で「その姿」を披露する。
「ふふ。……すごいね、亜利馬。待たせてごめんね、……いまオムツ替えてあげる」
………。
「だ、だ、駄目だよこれは! マニアックを通り越して需要なしだよ!」
大雅の妄想「オムツ交換」は性癖からくるものではなく、どうやら幼い頃の思い出が絡んでいるらしい。詳しくは聞いていないけど、相手が好きであればあるほどお世話したくなるというのだ。それも「老後」の世話ではなく「赤ん坊」が良いと言うのだから、何か他人には理解し難いこだわりがあるのだろう。
「それに、俺の方が大雅よりお兄さんぽいのに……」
「どの口が言ってるの」
「ご、ごめんなさい……!」
まとめて結論を出せば、一癖も二癖もある家族だ。平凡な家庭に育った俺に、この家族の末っ子が務まるのだろうか。
「今日はホットプレートで夕飯作ろうか。買い物行ってくるけど、みんな何が食べたい?」
夕方になって獅琉が言った。昔懐かしいテレビアニメにしか出てこないような買い物かごを腕に下げて、買い物メモの代わりにスマホを持って、エプロンを着けて行こうとしたのは流石に止めたけれど、どこからどう見ても立派な「お母さん」だ。
「俺はお好み焼き!」
「俺は焼きそばがいいです!」
「久々にもんじゃ焼きが食いたいな」
「たこ焼き……」
「そうだね大雅、俺もたこ焼きがいいからそれにしようか」
「独裁的な母ちゃんだな……」
獅琉を見送った後でキッチンへ行き、各々準備を進めておく。竜介がたこ焼き用のプレートを棚の下から取り出し、軽く洗いながら大雅に言った。
「たこ以外にも色んなモン入れたいんだろ?」
「うん。お餅とか、チョコレートも」
「うげ……大雅お前、味覚音痴だろ。餅はともかく甘いモンは入れたくねえよ」
潤歩に言われて黙ってしまった大雅の代わりに、俺はホットケーキ用のチョコソースを手に取って笑った。
「俺はチョコ焼き食べたいですけどね。カスタードクリーム焼きも食べたいし、イチゴ焼きとか、バナナ焼きも」
「夕飯だっつうの。お前が言ってるのは三時のおやつだろ」
「それくらい、たこ焼きに正解はないんですよ。味覚音痴じゃないです。ね、大雅!」
「亜利馬……」
そうそう、こんな風に優しさを分け合うようなアットホームな家族がいい。
家族として、俺はちゃんと大雅を理解してあげる。
「ありがとう。でも、……バナナ焼きは絶対ないと思う」
「……そ、そう?」
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