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亜利馬、落ちた先はセクハラ大地獄◆3
約一時間後に帰ってきた獅琉は、少し落ち込んだ顔をしていた。訊けばスーパーのタイムセールに参戦しようとしたが、パワー溢れる奥様達に敵わずいつの間にか突き飛ばされ、尻餅をついたらしい。
「お尻が痛い……」
「獅琉さんは優しいから、女性を押し退けられないですもんね」
「あんなに熾烈な争いになるなんて知らなかったよ。だけどあんまり俺が哀れだったのか、ウインナー売ってたお姉さんがいっぱい試食させてくれたんだ。二袋も買って来ちゃった」
「まんまと罠にハマってんじゃねえか」
ともあれ溶いた生地をプレートに流し、早速たこ焼きパーティーだ。
たこは勿論エビやシーチキン、野菜類、ウインナーに、季節外れの餅も、デザート用のチョコもある。手先の器用な竜介がくるくるとたこ焼きをひっくり返して行くのを大雅と見つめながら、二人して腹を鳴らしてしまった。
「ウチは食べ盛りの男子が多いからな。たくさん焼いておいて損はないだろ」
次々と出来上がって行くたこ焼きを皿に盛り、せっせとテーブルへ運ぶ獅琉。出来立てのつまみ食いをして唇に火傷を負う潤歩。俺と大雅も途中から手伝いに参加し、お茶や牛乳を注ぐグラスを出したり小分けの皿を並べたりと大忙しだ。
「入れたい具があったら言ってくれ、どんどん焼いてくぞ」
「さすがパパ、頼もしい」
獅琉が竜介の頬にキスをして大雅が石化し、みんなで笑って、潤歩と俺で大雅の両頬にキスをした。
「……意外と、そんなに沢山は食べれないもんですね……」
幾つ食べたか覚えてないけれど、もう腹がぱんぱんだ。大雅も隣でギブアップしている。
「情けねえなぁ、一番食わなきゃいけねえ十代が」
中の具なんてもはや気にしていない潤歩は、未だにバクバクと連続で頬張っている。獅琉も頑張っていたけれど「もうだめだぁ」と箸を置き、竜介も「休憩」と煙草を吸いに外に出てから帰って来ない。
俺は魚介類の匂いを嗅ぎつけて足元にやってきたシロを抱き、その喉を撫でながら至福の溜息をついた。
「賑やかで、会話の多い食卓っていいですよね」
「亜利馬の家もそんな感じでしょ?」
「俺んちは賑やかでも、殆どが親のケンカの声でしたから。大抵父ちゃんがギャンブルで負けて、母ちゃんに叱られてるパターンでしたけど」
獅琉がくすくすと笑って、口元をティッシュで拭いた。
「古き良き日本の家庭って感じだね。やっぱお母さんが強い方が家族は上手く行くって、本当なのかもね。俺の家は結構厳しかったから、食事中も成績とか政治の話ばっかりだったよ」
そんな獅琉の肩を潤歩がつついて言った。
「しょっちゅう、俺んちで飯食ってたもんな。お袋がお前のこと気に入ってたから、お前が来ると夕飯がちょっと豪華になってた。姉貴もお前にべったりだったし」
「潤歩さん、お姉さんいるんだ。全然そんな感じに見えませんね」
「潤歩のお姉さん、確かすごいヤンキーだったよね。潤歩より強かったんじゃない?」
「あのババアは弟の俺のことも平気でグーで殴るからな。それが今じゃ主婦やってんだからノンケの男ってのは見る目がねえぜ」
初めて聞くみんなの家族の話は面白かったけど、隣で黙っている大雅の気持ちを思うとこれ以上は止めておいた方がいいかもしれないと思った。さりげなく話題を変えようと思ったその時、
「俺も、すごい小さい時にお母さんが作ってくれたご飯のこと覚えてる」
大雅が微かに笑ってそう言った。
「顔とかは全然覚えてないけど、日曜日の夜はいっつもハンバーグで、それが嬉しかった。手伝ったりして、褒めてもらったのも覚えてる。……デザートのケーキも美味しかった」
どのくらい昔のことか分からないけれど、大雅はその時の記憶を頭に浮かべて笑っていた。大雅にも温かい大事な思い出があるのだと知って、何だか俺も嬉しくなってしまう。
「じゃあ、今度はみんなでハンバーグ作ろうよ。大雅のは特別、俺がネコの形に焼いてあげる」
「……うん。ありがとう亜利馬」
目を合わせて笑う俺達の背後で、一服し終わった竜介がようやく戻ってきて言った。
「みんな、明日はどこか出掛けないか。家族サービスするぞ!」
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