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亜利馬、昇った先はセクハラ天国?◆8
*
「うんうん、昨日のは良い感じだったよね! もう少しパパママの呼び方も徹底すれば、良い企画になるかも」
翌朝になって、あちこち痛む体を引きずりながらリビングへ行くと、テーブルの前に座った獅琉がパソコンのキーを叩いていた。
「おはようございます……何してるんですか?」
「おはよ亜利馬。忘れないうちに昨日の一部始終を文字にしておこうと思ってさ。そのまま山野さんにメールしないと」
「えっ、昨日のアレを……? や、やですよそんなの恥ずかしいっ」
「じゃないと、何のために練習したか分かんないじゃん。ちゃんと買い物行った時のことからレポートにしないとね」
そうだ、と獅琉が手を叩く。
「昨日は竜介の衣装でやったけど、今度は俺が買ったワンピース着てやらないと。二パターンのデータを取って、どっちがいいか決めてもらおう!」
「嫌ですってばあぁ!」
……そうして俺は心に決めた。もう二度と家族モノをやりたいなんて言わないと。
「亜利馬!」
翌日、久し振りに動画の生配信に出演することが決まって台本を読んでいたら、山野さんに声をかけられた。場所はビル八階の社員食堂だ。モデルはあまり利用しない場所だけど、最近はここのプリンが美味しくてこれだけを食べに通っている。
「山野さん、どうしたんですか?」
「獅琉からメールを受け取ったぞ。画像も添付されていたが……」
「げっ、あ、あれ見たんですか? 体液で妖怪みたいになってるやつ」
「ああ、確かに……あの姿は酷いモンだと思ったが……。なかなか見応えのある企画だと思ったんだ」
「そ、うですか……?」
山野さんが俺の隣に椅子を引き、腰を下ろす。それから眼鏡を外してレンズ部分を拭き、もう一度かけ直して言った。
「あんな無残な姿にされたということは、相当なことをされたんだろう」
「えっ、ま、まあ……はい」
「それでもお前はやり遂げた。鼻血一つ垂らさなかったそうじゃないか? 成長したな」
……あ、そういえば。
少し前までは、ちょっとのことですぐ鼻血を出していた。慣れてきたとはいえ、こないだのアレは俺史上最強のプレイだったはずなのに。鼻血や失神をしなかったどころか、二度の射精をした後ですぐにみんなを追いかけ回すほどの余裕もあった。
「亜利馬もだいぶ耐性がついてきたか。そろそろもう一段階レベルを上げてもいいかもしれないな」
「もう一段階って……?」
山野さんが不敵に笑い、スマホ画面を見せながら説明した。
「見てみろ。AVの企画はただセックスを魅せるだけではないんだ。例えば連続二十人フェラとか、公園で十人と野外プレイとか、少し難解なプレイも……」
「むっ、無理ですそんなの! 死んじゃいます!」
「そうか? 残念だな……」
冗談ではなく本当に肩を落とす山野さん。俺は台本を閉じてプリンを食べながら、「俺をキワモノ扱いしないでください」と山野さんをジト目で睨んだ。
「それに……俺が鼻血出さなかったのって、多分、ブレイズのメンバーが相手だったからだと思います。心から信頼できる先輩達だから、……どんな凄いプレイでも……安心して挑めたっていうか……」
「亜利馬……」
「だ、だからもし俺を信用して次からハードな企画やらせても、鼻血出さない保証はできませんよ」
「自慢げに言うことか」
「……あは、確かに!」
でも実際、そうだ。ブレイズのメンバーは今の俺にとって何よりも大切な存在。それこそ家族同然の存在だ。俺を支え、俺を愛し、俺を大事にしてくれている四人。俺だけじゃない。みんながみんな、お互いをそう思い合っている。
それって血の繋がりはなくても……もう、家族って呼んでも良いのかも。
「ま、家族はセックスしませんけど……」
「何か言ったか?」
「いえいえ、別に。社食のプリン美味しいんですよ、山野さんもどうですか?」
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