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亜利馬、恋愛について少し考える◆2

「回ってまーす。五秒前」 「……こんにちは! インヘル専門チャンネル、今回は会社近くの公園からお届けしています! お相手は動画班のインヘルちゃんと」 「亜利馬です! あ……違うっ、ブレイズの亜利馬です!」 「カット。二人とも間違えてるよ。撮り直すね」 「あ、ついインヘルちゃんのつもりで言っちゃった」 「お、俺も『@ブレイズ』の撮影のつもりで言っちゃいました」  ただでさえ暑くて死にそうな陽気なのに、間違えている場合じゃない。俺は足元に置いたボトルの水を飲んで喉を潤し、改めて気合を入れ直した。 「こんにちは! インヘル動画専門チャンネル、今回はとある公園からお届けしています! お相手は動画班の庵治武彦と」 「ブレイズの亜利馬です、よろしくお願いします!」 「皆さん、僕が誰だか分かんないと思うので自己紹介します。度々インヘルの公式動画で登場してるぬいぐるみ、インヘルちゃんの声を担当してます動画班の庵治と申します、よろしくね!」 「インヘルちゃんが実写化してそのまま喋ってるみたいですよ。庵治さん、全然違和感ないです」 「顔出ししないで動画やってたようなものだもんね。亜利馬くんは今日はどうしたの、暇なの?」 「暇じゃないですよっ! 呼ばれたから来たんです!」  台本半分、アドリブ半分。うちの動画はこのくらい緩くても「楽しさ優先」で許されるからやりやすい。 「インヘルちゃんの中身がこんな男前だって知らなかったでしょ? 今日僕が素顔で動画に出ているのには、ちゃんとした理由があるんですよ! ……ということで、インヘルで働くカップルっていうのが今日のテーマなんです!」  ここでテロップとSEが入る予定だ。頭の中のそれに合わせて、俺も拍手をする。 「庵治さん彼氏いたんですね。知らなかったです」 「またまた、亜利馬くんだっていっぱい彼氏いるくせに。毎晩大変なんでしょ?」 「ちがっ、……嘘ですよ! この人が言ってることは全部嘘ですから!」  これは完全なるアドリブ。こうして庵治さんは俺を翻弄してくるのだ。 「早く庵治さんの彼氏紹介してくださいよ」 「いいよ。そんじゃ、おいでーゆうちゃん!」 「こ、こんにちは」  少し照れた様子で雄二さんが画面の中に入り、俺と庵治さんの間に腰を下ろす。 「雄二です。えっと、インヘルさんでは今、モデルさん達のヘアメイクを担当しています」 「クッソイケメンでしょ。これが僕のパートナー」 「雄二さんには俺もいつもお世話になってるんです。これまでのDVDでも撮影前のヘアメイクは殆どが雄二さんにやってもらってるんですよ。ブレイズのメンバーも皆お世話になってます」  緊張のためか、唇を噛んではにかむ赤面顔の雄二さんは可愛らしかった。  ここから先は、俺が進行役だ。 「でもこうして動画に出るってことは、社内では公認のカップルってことですよね? 二人は入社してから付き合い始めたんですか?」 「そうだよ。僕が先に働いてて、ある日新しいヘアメの人がモデルさんの頭弄ってるところ撮影してたんだけど、それがその日初出勤のゆうちゃんだったんだ」 「一目惚れしたってことですか?」 「僕の方はね。普通に見た目がカッコいいから好きになったけど、一緒にご飯食べたりしてるうちに自然と仲良くなって、僕から告って付き合い出したって感じ」  へえ、と心の中で呟く。理想的な社内恋愛だ。 「雄二さんの方は、庵治さんのことどう思ってました?」 「俺は、……仕事に精一杯で、付き合う前のことはあんまり覚えてないんだけど……話も合ったし齢も近かったし、友達感覚でいたら突然告白されてちょっと驚いたな。でも俺も、おーちゃんなら一緒にいて楽しいって思えたから」 「いいなぁ、羨ましい。暑いし熱いです」  初めは隠れて付き合っていたこと。こっそり同棲を初めて住所でバレて、ビクビクしながら会社に報告したらサプライズで逆にお祝いされたこと。  家では雄二さんに髪を洗ってもらうのが庵治さんの最高の癒しであること。お返しに料理を振る舞われるのが雄二さんにとっての至福の時であること。支え合って、お互いに無い部分を補い合いながらこれまで暮らしてきたこと。  聞けば聞くほど、羨ましい二人だ。例え大きなケンカをしても、翌日までには自然と仲直りしているのだとか。 「AVメーカーっていう普通とは少し違う現場で働くのって、不安はありませんか? 例えばモデルさん達はイケメンが多いし、パートナーが浮気したらどうしようとか、そういうのは思わないですか?」 「ゆうちゃんは直にモデルさんと接することが多いからね。そういう意味では僕の方がいつも焼きもち焼いてるけど、浮気したらチン毛全剃りの刑があるからお互い浮気はできないよ。するつもりもないしね」 「今のは多分、ピー音入ってると思いますけど……なるほど、そういうルールがあるから上手く行ってるってことなんだ」 「うん。付き合う前にルール決めるのって割とアリだと思うよ。ルールっていうと堅苦しいから、僕達は『二人だけの約束』って言ってるけどね」 「はぁ……」

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