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番外編、大雅の物語◆6

「仕事のためとは言っても、あんまり無理はするなよ」 「……うん」 「それでなくてもお前はいつも眠そうにしてるし……ちゃんと睡眠取ってるのか?」 「……ん」 「まあ、それに乗っかってる俺も俺だけどな!」  ……セックスが終わった後はそんな話より、もっと甘い囁きをくれたっていいのに。  わがままな自分に心の中で苦笑しながら、大雅はまだ汗が乾き切っていない竜介の胸板を指で触れた。腕枕してくれるようになっただけ、初めよりは進展したのだろうか。  それにしても、どうしてこんなに好きなんだろう。恋人どころか友人さえできたことがないのに、一丁前に人を好きになることだけはできるなんて、少し残酷な話だ。初めて優しくしてくれて、初めてセックスの悦びを教えてくれた相手だから。それだけの理由があれば、彼を好きになっても仕方がないと言えるだろうか。許されるだろうか。  告白なんて大それたことはできないし、そもそも、これが「恋」なのかも分からない。竜介は自分がただ懐いているだけだと思っているようだ。ひょっとしたらそうなのかも。ヒナが初めて見たものを親鳥だと思い込むようなものなのかもしれない――。 「前に言ってたグループ作る話、来年の春頃には本格的にまとまるみたいだぞ。後一人、新人が入るって」 「やりたくない」 「どうして」 「……自信ない。どうせ、皆とも新人とも上手く喋れない」  チームとかグループとか、その単語だけで胸の奥がぎゅっと苦しくなる。子供の頃からいつだって余り者でしかなかった自分が、どうして今回に限り五人の内に選ばれたのか。何度聞いても理由が分からず、不安だった。 「獅琉は優しくしてくれるだろ。潤歩はあの通りだが、実際喋ってみると良い奴だ。何も心配することはないさ。怖かったら俺にくっついていればいい」 「………」 「新人が来るまでに、大雅もお兄さんにならないとな。分からないことを聞かれたら教えてやれるようにならないと」 「……どうせ頼られない」  竜介が困ったように笑って、大雅の頭を優しく撫でた。 「そんなことない。新人なら俺より大雅の方が年齢近いだろうし、友達になれるかもしれないぞ」 「………」  そんなものが今まで一度もできたことがないということは、竜介には打ち明けてある。大雅だって本当は憧れていた。自分がもう少し明るい性格だったらと仮定して、誰かと話したり出掛けたり、笑ったり、そういう漠然とした、……友情とは一体どんなものなのか。知りたい気持ちも確かにあった。 「期待が外れたら嫌だから、期待しない」 「天邪鬼だな」  くすくすと笑って、竜介が大雅の額に口付ける。 「もしもそいつと友達になれたら、そうだな……大雅にとって大事な物を分けてやれ。俺にもそうしてくれてるだろ。今日だってそれで呼ばれた」 「……ケーキあげたりとか?」 「ああ。それに、別に食いモンじゃなくても好きな映画とか音楽とか、時間そのものとかな。大事な物を分け合っても良いと思えたら、それはもう友達だ」 「………」  大事なもの。そんなに多くはない。

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