7 / 7
第7話
暎はあの後一度も部屋から出ず、丸一日が経った。
夏希が食事を運んできても無言を貫き、カギをかけたドアを開けない。
小さなノックの音と夏希の困ったような声が暎をより頑なにさせた。
しかし、いい加減空腹も限界だった。ぐうぐうと訴えかける腹の音に耳をふさぎ布団にくるまる。
己の無知さが、浅はかさが、ひどく憎い。
あのあとこっそり調べたが、何の準備もせずにことを推し進めていたら、致命的なケガを夏希に追わせていたかもしれないと知って、自分の愚かさに発狂しそうになった。
暎が布団を身体に巻き付けたまま唸っていると、コンコンとドアがノックされた。
「暎、いい加減食事をとれ」
その言葉に返事もせずに押し黙っていると、ピピっとドアのかぎが開錠される音が響いた。
耳を疑って顔をあげると、平然とドアを開けて夏希が入ってくる。
「どうやって……」
呆然とつぶやく暎に夏希は苦笑した。
「俺がこの部屋のカギを開けられないと本気で思っていたのか?」
「マスターキーだよ」言いながらちらりとカードを見せる。暎はむっと鼻にしわを寄せた。
「ずるいぞ」
「お前が食事を取らないからだ。一日自由にさせてやったんだから十分だろ」
カタンと机の上にトレイを置くと、夏希はベッドに腰かけて暎の布団をひっぱった。
仕方なく、ふてくされたまま布団から這い出る。夏希が頭に手を置くと、暎はそっと目を閉じた。頭を撫でられるのは気持ちいい。
怒ってもいいのは夏希なのに、どこまでも彼は優しい。
本当に、自分は相手にされていないのだ。
軽い絶望を打ち消すように、暎は夏希の襟元を引っ張ると力強く唇を押し付けた。がちんと歯がぶつかり二人してうめく。
キスすらまともにできない。
悔しい気持ちをにじませながら、暎は夏希をにらみ上げた。
「俺はあきらめないからな」
夏希は痛そうに口元を押さえていたが、その言葉を聞いて苦笑した。
「じゃあ、お手並み拝見といこうか」
ともだちにシェアしよう!