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番外編②-2

「ほら、貸してごらん」 栗崎はトオルの握り締められている手からネクタイを取り上げた。 「すみません、やっぱりこっちのネクタイをお願いします」 そして女性スタッフに手渡す。 「リョウイチ……?」 顔を上げたトオルが目を瞬かせている。 「おまえはこの色が俺に似合うと思うんだろ?」 「う、うん! じゃ、これはオレからプレゼントするよ」 途端に顔を綻ばせてそう言いながら、肩に掛けていたトートバックから財布を取り出す。 「いやいや、自分で買うよ」 栗崎が慌ててその手を止めようとすると、トオルがふっと意味深な笑みを見せ、背伸びをした。 そして栗崎の耳元で声を潜める。 「昨日のハンバーグのお礼だよ。それに、ハンバーグだけじゃなくリョウイチも食べちゃったしさ」 「!」 栗崎が声を詰まらせている間に、トオルは素知らぬ顔をしてスタッフに金を渡す。 女性スタッフは何か諦めた表情でレジへと向かって行った。 会計を終え、店外に出るとトオルが不満そうに眉根を寄せた。 「もう、あの店、行かない」 「あ? さっきから一体、どうしたんだ、トオル?」 「だって、あの店員、リョウイチにベタベタし過ぎなんだもん……」 「ベタベタって、ただネクタイを合わせてくれてただけじゃないか」 栗崎が戸惑った顔でトオルを見下ろす。 しかしトオルはさらにむくれた顔になり、栗崎を横目で睨み付けてきた。 「リョウイチは鈍すぎなんだよ! も少し気を付けてよ! それにオレ、弟でも友達でもないのに……」 トオルの声は段々と消え入りそうなほどに小さくなって、結局ソッポを向いてしまった。 (何なんだ……? 嫉妬……だったのか?) 栗崎は小さく息を吐きながらも、トオルの膨らんだ頬を指でつついた。 「!」 トオルが険しい顔のまま振り返る。 栗崎はそんなトオルの瞳を真っ直ぐに見つめ、口を開いた。 「わかった、これから気を付ける。だが、心配しなくても俺はおまえだけのものだ」 「……っ」 トオルは恥ずかしげに視線を揺らし、その耳をじんわりと紅く染める。 「これ、早速明日から会社に付けて行っていいか?」 加えてそう訊ねると、トオルの顔から翳りが失せ、一気に華やいだ。 「もちろん!」 「ありがとう、トオル。大事にするよ」 秋の日差しに艶めく柔らかな黒髪を撫でると、トオルが気持ちよさそうに目を細める。 「リョウイチ、早く帰って、今日も一緒に晩飯作ろう?」 「ああ」 すっかり機嫌の良くなったトオルは栗崎の手を取ると、先を歩いて腕を引っ張った。 栗崎はトオルが女性スタッフに見せた先ほどの表情を思い出す。 (そういえば、初めて会った頃はあんな顔ばかりしてたな……。そう思えば、よく懐いたもんだ) そんなことを考え、内心クスリと笑った。 栗崎は繋がれた手をギュッと握り締める。 「リョウイチ? どした?」 小さく首を傾げながらトオルが面映い顔で振り向く。 (これからはずっと笑っててくれ、トオル) 「なんでもない」 栗崎もその顔に笑みを返した。 ***終わり P.S.「そのネクタイ、絶対彼女が見繕ってくれたんでしょ? 雰囲気にすげー合ってますよ!」 翌日栗崎は、島田に散々ネクタイについていじられました、とさ。 <おまけ> 本編終了後のふたりがどんな『リ・スタート』を切ったかといいますと……。 トオルは(自分のせいではありますが!)波田野のように自ら死を選ぼうとする人間を助けたいと、精神科医になるため、もう一度医師になる決意をします。 そして、波田野総合病院を辞めて、栗崎の部屋で暮らし始めました。 昼間は勉強して、夜はヒヤシンスでボーイとして働いています。 栗崎は支店統合後、課長に昇進したので忙しさに拍車が掛かり、トオルとは生活リズムも正反対なので、すれ違いの日々です。 しかもトオルがヒヤシンスで働くことに内心ではヒヤヒヤしているのですが、栗崎は信じて何も言いません。 しかし! その生活に独占欲の強いトオルの方が拗ねてしまい、ちょくちょく「もっと一緒にいたい!」とわがままを言っては栗崎を困らせています。 といった感じです☆ 痴話喧嘩をしながらも、なんだかんだ楽しく暮らしています(笑) こんなところまで読んでいただき、ありがとうございました(^ω^)

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