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第11話
「今後はないからな」
翌朝、もう昼近くに目覚めたベッドの上で、開口一番リカルドが宣言した。
「ゆうべは楽しかったね」
まるで本気に受け取っていない態度でアキトは笑う。
「それは否定しないが、もうしないぞ」
「妬いたんだ?」
「ああ、予想以上にね」
リカルドは正直に答えた。
「僕は案外、嫉妬する質らしい」
ミケーレにあんなにムカつくとは思わなかった。
酔ってもいたし楽しかった気もするが、アキトが蕩けた顔でミケーレに甘える姿に胸がじりじり焦げついたほうが鮮烈だ。
「今まで何度もミケーレと楽しんだのに、昨日は複雑だった」
「ふーん、何度もね」
「言葉のあやだ」
しらっと言い切るリカルドに、アキトは口角を上げた。
「興奮してたくせに」
かなり激しく抱かれて、今も体を起こすのが億劫だ。
「確かに興奮はしたな。でも嫉妬のほうが強かった。だから今後は断ってくれ」
反発するだろうと思ったが、返って来たのは笑みをにじませた甘い言葉。
「そういうとこ、好き」
「ウザいと思ったくせに嘘つきだな」
リカルドが仏頂面でそっぽを向くと、アキトはその顎をすくって自分に向けさせた。
「いつもならね。でも今のはちょっとぐっときた。リカルドの正直なとこ、結構好きだよ」
本当に?
声に出さずに目線で訊ねると、アキトはするりと腕を首に巻きつけてキスをねだる。
上目遣いに誘われて唇を合わせた。しっとりと舌が絡み合う。
穏やかなキスを交わしていると、コンコンとノックの音がした。
「お二人さん、そろそろシャワーを浴びてブランチはいかが?」
やわらかな白いシャツ姿も優雅なミケーレが入ってきて、裸のまま抱き合っている二人を見てからかう。
「いい男がそうしてると絵になるね」
「よく言うよ」
ベッドサイドの水差しからグラスに水を注ぐと、リカルドはアキトにグラスを渡す。アキトが飲んでから自分も喉を潤してシャワーを浴びた。
ブランチはテラスに用意されていた。
執事がワゴンを運んできて、銀のポットから熱いエスプレッソを注いだ。躾の行き届いた執事はシャワー上がりの気だるげな客を見ても眉一つ動かさない。
「いい天気だな」
「ああ。食事が済んだら散歩しようか」
ミケーレが誘う。
「昨日はろくに庭なんて見なかっただろ? ゆうべの黒薔薇ほどじゃないが、うちの庭も悪くないよ」
「いや、もう薔薇は十分だ」
リカルドがかぶりを振った。
「ゆうべ黒薔薇を堪能したからな」
アキトは黙って微笑み、パニーニを口に運ぶ。
それは三人だけが知っている、一夜かぎりの秘密の花園。
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