先生の部屋で俺は一人留守番中── いつもは学校も近いしベッドも大きいから、とかなんとか言って俺の部屋で過ごす事が多いんだけど、今日は明日の俺の仕事のスケジュールを見て、先生の部屋の方がいいって事で此処にいる。 先生はまだ学校…… 合鍵があるから先に来てるわけなんだけど、俺は今イラついてます。 ちょっと前の事── 俺はいつもそうしてるように、勝手に冷蔵庫を開け、俺のために用意してくれているミネラルウォーターを取り出しソファで寛いでいた。 ローテーブルの上には一冊の雑誌。 あ、これ俺が載ってるやつだ、と思い手を伸ばしたらうっかり水をこぼしてしまった。まあ、水だし慌てることもないと、しゃがみ込んでのんびりとタオルで床を拭いていたら、ふとある物に気が付いたんだ。 ベッドの下……あの奥に落ちているのは何だろう？ 取り出して見てみると、一冊のポケットアルバムだった。俺は写真は殆どスマホの中だから、ちょっと物珍しく思い何の躊躇いもなく開いてしまった。 開かなきゃよかった…… そう思ってももう手遅れ。俺は黙ってペラペラと写真を捲る。 何年前だろうか？ 今よりも髪の毛が短く日焼けした肌。若々しく少し派手な服を着たチャラそうな先生がこちらを見て笑いかけてる。その傍らには落ち着いた雰囲気のカッコいい紳士。仲良さそうに先生の肩を抱いている。派手な先生とは対照的にスーツを着たその人はきっと先生よりもだいぶ歳上…… どの写真にも二人で一緒に写っていて、肩を寄せ合い自撮りするその様子は誰がどう見ても恋人同士だとわかる。俺は呆然としながら写真を眺めた。 元カレ？ 中には先生の頬にキスをしている写真もあった。 やんちゃそうな若い先生。悔しいけどやっぱりカッコいい……そして最後のページに、小さな紙袋に入った別の写真もあった。 それは高校の制服を着た若かりし頃の先生。先程見ていた先生よりも、もっと日焼けした先生が満面の笑みで肩を組む相手は悠さんだった。 先生と同じ制服に身を包み、胸には花をつけている。きっとこれは悠さんの卒業式の時の写真。 悠さんと先生は、恋人同士ではなかったけれど体の関係があったのは知っている。知っているからこそ、この写真の意味が俺にはわかってしまい胸が痛んだ。 悠さんはきっと先生の事が好きだった。 そして先生もきっと…… 過去はどうであれ、今は俺を選んでくれて一緒にいてくれている。過去に嫉妬してもしょうがないのはわかってる。誰にだって忘れられない甘くて大切な思い出があるのもわかってる。 こんな写真、焼き捨ててしまいたいと思っても、俺がそんなことをしていいわけがなく、ましてや「捨てて」なんて言えるわけがない。 俺にとってモヤモヤする写真だとしても、先生にとっては大切な思い出なのだから…… 「何でこんなとこに置いておくんだよ。こんなの見つけなきゃよかった」 このアルバムをどうしようか…… 元の場所にそっと戻しておこうかと考えたけどやめた。そっと戻したって、なかった事には出来ない俺はきっと態度に出してしまう。俺の態度に先生は原因がわからず困ってしまうだろう。だったら初めから話したほうがいい。 そう思って俺はアルバムをテーブルの上に置き、先生の帰りを待った。