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第1話

俺の恋は生まれ落ちた瞬間から詰んでいる。 我が家はαの家系で、生まれる子供は全て例外なくαな為、俺天羽和泉も兄静流もαで産まれた。 両親は互いに運命の番を探していたが見付からず政略結婚をした。 義務的に跡継ぎを2人作った後も恋愛感情は生まれなかった為、今では別居し仕事上のパートナーになっている。 父は兄を、母は俺を互いの実家で育てた為俺達兄弟は殆ど逢えずに大学生になった。 時折逢えた兄は見る度に美しく成長していき、俺は兄を目にする度、心を奪われていた。 俺はα男性だが普通と違う。 友人達が女性やΩに恋をする中、俺は誰も好きになれなかった。 皆と違い、女性やΩに惹かれない。 誰もが魅力的だと興奮するΩのフェロモンも俺には効かなかった。 逆に甘ったるい匂いが気持ち悪くて嫌だった。 誰にも心を動かされない俺だが、唯一例外が居る。 それはαである実兄だ。 兄は頭脳明晰で全てにおいて他者より優れている。 超絶美形な父の遺伝子を色濃く受け継いでいる為容姿もずば抜けている。 誰が見ても優れたαだと分かる。 兄は俺の憧れであり、初恋の人だ。 最初は唯の憧れだった。 だがそれは兄を見る度どんどん大きくなっていき、いつしか恋に変わった。 俺も兄もいずれΩか優秀なαと結婚し、子供を作らなければならない。 互いにαである以上、どんなに想っても俺は兄の番にはなれない。 こんな気持ち抱いているだけ無駄なのに、諦められない。 兄にしか魅力を感じれない自分にとって、他の人との恋なんて不可能だ。 19になる直前、兄は結婚した。 容姿端麗の派手なΩの美女で、兄と並ぶと美しかった。 出逢って互いに運命を感じ、そのまま付き合い始めたらしい。 そして約半年後彼女は妊娠した。 理想的なαとΩの結婚をした兄の人生にとって、兄を好きな俺は異分子でしかない。 誰にも想いを告げれず俺は19になった。 誕生日の日、母からお見合いを勧められた。 ホテルのホールを貸し切って集められたΩの女性達。 俺の好みが分からなかった母は様々な女性を集めた。 明らか俺より若い人から年配の方迄。 この中から気になる匂いを探しなさいと言われ、一人ずつ握手をさせられた。 噎せ返る甘く鼻を突く香り。 苦手だ。 早くこの場を去りたかったので、母に言われるまま全員と手を握る。 どうせ皆一緒だ。そう思っていたのに 『ん?』 1人だけ違和感を感じた。 「気になる方は居ました?」 母に言われ、ある女性を教えた。 彼女の名前は千景といって、パッと見地味で大人しめだが、可愛らしく男性なら思わず守ってあげたくなる様なタイプだった。 まぁ、俺はそうならないが。 母に告げると 「なら彼女で決まりね」 あっという間に俺の婚約者は彼女に決定した。 別に誰でも構わなかった俺は反対する事もせず受け入れた。 早速今日から子作りの為彼女を抱きなさい言われたが、抱けるワケがない。 今迄何も経験がない上に、彼女に欲情しないからだ。 試しに抱き締め様としたが、身体が竦んで出来なかった。 何度トライしようとしても拒絶反応が出て、近付く事さえ不可能だった。 見兼ねた母は、兄に性的指導係を頼んだ。 先に手本を見せるから真似てしてみろ言われ、兄の行動を見る。 彼女を抱き締め、キスをする兄。 胸が締め付けられ息が苦しい。 折角実践で教えてくれているのだから目を逸らしてはいけない。 そう分かっているのに、苦しくて辛くて泣きそうで何度も死にそうになった。 「これで一通り全て終了だ。和泉してみなさい」 したくないが、俺にとって兄の言う事は絶対だ。 「はい。兄様」 俺は服を脱ぎ彼女にキスをした。 初めてするそれは気持ち悪くて嫌で堪らなかったが、僅かに残ってる兄の唾液を味わいたくて舌を絡めた。 微かに瞼を開けた時彼女の顔が見えて、辛くて目を逸らした。 兄との間接キスは全く甘くなく、切なさしかない。 逸らした視線の先にあったのは兄が外したゴム。 先端が結ばれ中に放たれた液体が零れない様にされている。 それは普通の人間の感覚から言えば唯のゴミなのだが、俺にとっては欲しくて堪らない物に思えた。 飲みたい。 俺の中に流し入れて欲しい。 目の前に居る彼女よりそれの方が魅力的に感じる俺は、もう色々な意味で終わっている。 キスの後は抱く様に言われたが、全く反応しない下半身。 正常位の体制で先に進めない俺の耳元で 「和泉」 兄が名前を呼んだ。 甘く脳をも溶かす美声。 ゾクン背筋に甘い電流が流れ俺の物は熱を持った。 兄に促され彼女の中に挿れたが、フリーズしてしまう。 先程の見本でやり方は理解しているが、身体が動かない。 抱けないよ、兄様。 見兼ねた兄は耳元に唇を寄せたままの姿勢で俺に指示を出し始めた。 最初は浅く、慣れてきたら奥迄突きなさい。 中だけでなく全身も触ってあげるんだ。 指示通りに彼女を愛撫する。 兄の期待に応える為必死にする行為は最早彼女との愛を深め確かめ合う物ではなく、保健体育の実践授業みたいになっていた。 ラストスパートに突入したが、達せそうにない。 泣きそうな顔で兄に助けを乞う。 「兄様。兄様、もう……無理…です。もう出来ません」 だが兄は 「ダメだよ和泉。これはαがΩに行う神聖な儀式だ。途中で止めちゃいけないよ」 逃げるのを許してくれなかった。 「兄様」 泣きながら兄を呼ぶとふわり撫でてくれた頭。 触れてくれた大好きな手。 嬉しくて擦り寄り、甘えると 「可愛いな和泉は。凄く……可愛い」 吐息混じりに甘く囁きながら耳朶を食まれ 「…っあ……ん、ぁあ、んんっ」 俺は初めて射精した。 今迄夢精はあるが、自ずから排出した事はなかった。 たまに朝勃ちするが、どうして良いか分からず冷たいシャワーを浴びて熱を鎮めていた。 性行為でではなく、兄の声と与えられた甘い痛みで達した。 とはいえ、儀式は成功した。 兄とは違い生で挿入していた自身を抜くとコポリ白い液体が入口から溢れた。 自分の出した物だとは理解していたが、生々しくて吐き気がした。 「今から彼女は妊娠する為の期間に入るから 体調管理は和泉がきちんとサポートしてあげなさいね」 兄に言われ、彼女を別室のベッドに移動させパジャマに着替えさせた。 その後は栄養のある食事を作ったり、彼女に食べさせたりして経過を見た。 1回目の行為では無理だったが、2回目で彼女の胎内で新しい生命は着床した。 妊娠が確定し彼女と兄と両親は喜んだが、俺はどこかソレを他人事の様に感じていた。 その後兄の彼女の子供も産まれ、遅れて俺の子供も産まれたが、やはり実感は沸かなかった。 俺以外は全員新しい生命に喜び幸せを感じている。 だが俺は全く前に進めず立ち止まっていた。 赤子を抱き上げ世話をする兄に絶望を感じた。 見たくない。 目を背けたい現実。 逃げたいのに逃れられない。 αとして順調に歩んでいる俺と兄の人生。 幸せな筈なのに、全く嬉しくなかった。 俺は抱くのではなく、抱かれたいんだ。 Ωを愛すのではなく、αである兄にΩみたいに愛されたい。 そして漸く女性やΩに嫌悪感を抱いていた意味が理解出来た。 俺は羨ましかったんだ。 兄に愛される立場になれる女性やΩが。 だから苦手で嫌だったのだと。 一度理解してしまったらもう無理だった。 子供は可愛いと思えるが彼女は愛せなかった。 彼女に愛する事が出来ないと告げたが、番の解消はΩの身体と精神に激しいショックと負担をかける。身体の弱いΩだと死んでしまう事もあるらしい。 発情期が死ぬ迄終わらず、もし好きな人が出来てもその人とは番になれない。 αの番は解消すれば何回も作れるが、Ωの番は一生に一度きり。 尚且つ一度番になってしまったら、その人としか快楽を感じれない。 他の人から与えられる快楽は痛みと苦痛でしかないのだ。 学校で教えられ理解している為、番の解消は出来なかった。 だが、彼女と結婚を続ける事も出来ない。 どうする事も出来ず八方塞がりになってしまった俺を救ってくれたのは母だった。 母が彼女をパートナーにした。 母は俺に愛されない事を嘆き苦しんでいた彼女を守ってあげたくなったのだ。 俺は母に彼女を託し、彼女から離れた。

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