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① 僕の話

出会ったのは東北の日本海側を走るローカル線・五能線の車内だった。 学生生活最後の夏休みに、僕は念願の鉄道旅行を楽しんでいた。 就職も決まってバイト代も貯まっていて、きっともう1か月の休みなんて取れることはないだろうな、と思うと、いてもたってもいられず、青春18キップの束と一人用のテント、寝袋を手に入れて父の愛用する登山リュックに押し込んで、新快速に飛び乗ったのが2週間前。今朝は奥羽本線から五能線へと乗り換えた。夏休みとはいえ平日午前中の車内はがらんとしていて、僕のいる車両には僕以外に家族連れとおじいちゃん、おばあちゃんの夫婦が座っているだけだった。窓際ではしゃぐ幼稚園くらいの男の子の手には新幹線500系のプラレールが握られていた。 深浦駅を少し過ぎたあたりで同じ車両に入ってきた彼は、見るからにアマチュアとは思えない高価そうな撮影機材を抱えている。そういえば、深浦駅で降りたら有名な撮影スポットがあったっけ。 ガタンガタン。 旧国鉄、昭和50年代に作られたキハ40形は大袈裟な音を立てて線路を進んでいく。端っこが錆びついた四角い樺色の車体は、きっとまわりの深緑の森林と碧い海によく映えるんだろうな。 「すみません」 窓の外を眺める僕に、「はい?」 カメラを向け声をかけてきた。 「きみも写真に入れていいですか?」 いいですか、なんて言いながら振り返った瞬間にシャッターは切られていて。「ありがとう」 その写真は今もリビングに飾られているけど、そのときに「ありがとう」といったあなたの笑顔があまりに眩しくて、僕はきっと、その瞬間に恋をしたんだと思うよ。  

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