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③ そして僕の話

江ノ島さんが亡くなったのは僕と別れたすぐあとだったらしい。江ノ島さんの携帯に残った最後の番号が僕のもので、初七日が終わってリダイヤルをしてきた彼の妹さんが僕にそう言った。鉄道が大好きだった江ノ島さんは、あのあと白沢駅から撮影地に向かう途中で交通事故にあって亡くなった、と聞いた。 もう9月も終わりに近づいていた。僕は時計の日焼け痕を見ながらぼんやりと授業を受けていた。 「拓海、講義終わったよ」 同じサークルの美香が僕の肩をぽんと叩いた。「夏休みになんかいいことあった? 雰囲気変わったよね」 「別にないよ?」 「コイビトができたとか?」 「ないない」 「そ、じゃ来週の合コンのメンバーに拓海も入れとくね。拓海がいるとみんな喜ぶんだよね」 「OK。わかった」 「じゃ、あとで連絡するね! あ、りょうたー」 …夏休みの前となにも変わらない日常が続いている。僕はポケットからアイフォンを取り出して電源を入れた。 あの日から一度も更新されていない江ノ島さんのSNSの写真は五能線から見える風景と僕の後姿だった。

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