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第1話

 この世界には男女の性とは別に、三つの性が存在する。  すべてに長けた支配者のアルファ。一番人口の多い平凡なベータ。妊娠に特化したオメガ。ここは三人の大公と呼ばれるアルファが頂点に立つ国で、大公はどのアルファよりも優れている。 「しかしそのため大公は運命の番とでなければ子供は産まれません。しかし運命の番さえ見つかれば、大公とその番との間産まれる子供は皆アルファです。そのため我が国では偉大な大公の血を残すために医学を使って採血によって大公の番を探します。その――……」 「その一人が俺だって言いたいんだろ? 何回も何回も教えられなくったって、もう流石に覚えたよ」 「それは良うございます。が、大公子妃様、ご自分のことは〝俺〟ではなく、〝わたし〟あるいは〝わたくし〟と仰ってください」 「はいはい、私だと言いたいんでしょう? これでいいのかよ」  このやり取りも、もう何度目だろうか。反抗的な態度の大公子妃――雪月花(ゆづか)に専属教師の役割を担っている女は深々とため息をついた。 「俗物的な物をご覧になるから、その様なガサツな言葉遣いになるのです。あなた様は大公子妃様。もう少しご成長なさり、無事に発情期がおとずれれば駿河大公子様の番になられ、ゆくゆくは駿河大公妃様と崇められるお立場でいらっしゃるのですよ? 大公妃としての威厳や気品を落とさぬよう、立ち振る舞いやお言葉遣いは十分にお気をつけになり、お勉強もしっかりとなさらなくてはなりません」  この国に君臨する大公。そのうちの一人である駿河大公の子供、駿河大公子である(りつ)の運命の番だとされてから、もう何度も聞いた言葉だ。オメガとして産まれた子供の義務で受ける血液検査で適合し、雪月花は生後一か月で家族から引き離され、この大公邸に連れてこられた。外部との接触は一切遮断され、青空を仰ぐことができるのも、散歩の時間と定められた一時間だけだ。その時でさえ、一人にはなれない。常に誰かが側にいて、窓さえも存在しない部屋で過ごす日々。雪月花の唯一の楽しみは、本を読むことだけだ。だがその本でさえ、大公や大公妃、その子供達を守る役目をしている元老院からすれば排除したいものなのだろう。葎があまりにも可哀想だと掛け合ってくれたから、目こぼしで許されているにすぎない。 「碌な勉強なんか教えてくれないくせに。教えるって言ったら発情期だ、子作りのヤリ方だ、産んだらまたヤって。そんなことばっかりだろ? 流石にもう聞き飽きた」  まるで、お前は次代の大公を産むためだけに生まれてきたのだと、しつこく言い聞かされているかのようだ。

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