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第2話

「ヤっ……なんてお言葉遣いを!」 「なら子作りのための性交、とでも言ったらいいのか? どの道言わんとしていることは変わりないだろう? 大公子は外に出ることも学ぶことも許されるのに、俺には何一つ許されない」  大公は外の世界を知ることが許されるのに、どうして妻になるオメガにはそれが許されないのか、雪月花には不満でならなかった。大公子は親元で育つことができるのに、自分は親の顔さえ、写真でしか知らない。 「大公子様はじきにこの国を背負って立つアルファでいらっしゃいますから外の学校に通われ、見聞を広めることも必要です」 「じゃぁ俺には必要ないとでも?」 「ではお訊きいたしますが、政に関わる必要も外にお出ましになる必要も一切ない大公子妃様に、大公子様と同じお勉強が果たして必要でございましょうか? 大公子様に求められることは国の繁栄と政を行うこと。大公子妃様に求められることは一人でも多く大公子様のお子さまをお産みくださることでございます。それから、何度も申し上げますが、ご自分の事を仰る時は〝わたし〟か〝わたくし〟と仰ってください」  やはり、自分は次期大公を産むだけの道具なのか。  雪月花が唇を噛んだ時、カタンと小さな音が室内に響いた。 「もう勉強は終わった?」  ヒョコリと扉から顔を覗かせたのは雪月花の番だと言われている葎だった。次期大公である大公子は三人いて、出雲大公子は筋肉質、志摩大公子もスラリとしているがパッと見ただけでも筋肉が付いているのがわかる体躯をしている。しかし駿河大公子である葎は一番細く、背中まである長い髪と優し気な微笑みで学者のような雰囲気を持っていた。雪月花よりも少しばかり年上の彼は、既に大学に通いながら父親である駿河大公の仕事を手伝っている。彼に限らないが、大公子たちは皆大学を卒業して一年ほどで大公の地位を受け継ぐ。その時に漸く、先の大公や大公妃は己だけの時間を得ることができ、幼い子供達と長く触れあうことを許されるのだ。葎は今大学四年生。もうすぐそこまで、大公になる時は迫ってきている。それまでに発情期が来てしまえば、そのまま葎と交わり番とされ、もし来なければ誘発剤を服用させられ、無理矢理身体を発情させて番とさせられる。そして番になれば葎が仕事をしている間は同じ建物にあるサロンで重鎮達のオメガと共に押し込められて、葎が迎えに来てくれなければサロンから出ることさえもできない生活が待っている。 「いえ……それは……」  アルファの、それも大公の血を受け継ぐ者達はとりわけ自らの番に異常な執着を示す。彼の番とされている雪月花に怒っていたなどとは、どれだけ自分の正当性を信じていたとしても言い辛い。言葉を濁す女に、プイッとそっぽを向く雪月花。何があったかを大よそ理解して、葎は苦笑していた。

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