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第12話

 閉じ込めてしまえばよかったのか。この子の望むモノを何も与えずに、ただひたすらに鳥籠の中で愛しつくすだけの生活を与えていれば、これほどに自由を切望することも、得られない絶望を味わうこともなかったのだろうか。 「雪月花、自由はないかもしれないけれど、その代わり大公子妃だから美味しいものも食べられるし、綺麗な服も着られるよ」  それがなんの慰めにもならないと知りながら、それでもそんなことしか頭に浮かばなかった。 「ずっと僕が側にいる。僕が愛するのは、雪月花だけ」  それさえも、雪月花が欲しがっていないのは、知っているけれど。 「ぃやだ……」  掠れた声が胸元で聞こえる。 「葎が俺を愛しているのは〝俺〟だからじゃない。葎が愛しているのは〝駿河大公子妃〟だ。お前の子供を産めるから、愛しているにすぎない」 「違うッ‼」 「俺は大公子妃に産まれたくて産まれたわけじゃないッ‼」 「ッッ――‼」  雪月花が葎を押し退けて叫んだ。その叫びに、追いかけようとした葎の腕が力なく垂れさがる。 「……俺がオメガじゃなかったら、俺が、お前と適合しなければ……それでも、お前は俺を愛するとでも? そんなことは、あり得ない」 「雪月花、僕は――……」  葎が伸ばした手は、雪月花を捕まえることはできなかった。雪月花は踵を返し走ってしまう。大公邸に入っていったから危険はないだろうが、葎の目には、雪月花が泣いているように見えて、気がかりで仕方がなかった。 「雪月花は、ずっとそう思ってたの?」  自分の番だから、彼しか自分の子を産める人がいないから、雪月花を愛していると。 「雪月花……僕は、君だけが欲しいのに」  この渇望を、どうしたらわかってくれるのだろう。これほどに雪月花だけを求めているのに、雪月花はそれを否定してしまう。  今も、泣いているのだろうか。その涙を、自分は受け止めてあげることさえ許されないのか。  星さえも光らない夜空を見上げて、葎は深いため息を一つ、零した。

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