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第11話
「しかし、大公子様だけでは危険でございます」
葎も護衛を連れてきていない。そのことを心配した女だったが、葎は首を横に振って否定した。
「必要ある? ここから中に入るのはすぐだし、揺り籠までそう遠くない。それに僕はアルファだよ? 並の人間が敵うとでも?」
そう、葎はアルファだ。それも、大公子という、強大な力を持ったアルファ。
「かしこまりました。では、私共は下がらせていただきます」
葎に軽く頭を下げ、男が雪月花の用意したバケツを持って、二人共その場を後にした。
「雪月花、中に入ろう?」
そっと腕を掴んで立ち上がらせる。落ち込んでいるのがわかって、その華奢な身体を抱きしめようとした瞬間、雪月花は思いっきり葎の手を振り払った。
「雪月花?」
いつにない、明らかな拒絶に葎の声も戸惑いに揺れる。だがそれ以上に、雪月花の涙で濡れた瞳は揺らいでいた。
「こんなにまで、俺は何も許されないのか?」
「雪月花?」
雪月花の声が震えている。俯いているためか、前髪が目元を隠してしまった。今の葎には、雪月花がどんな表情をしているのかさえ、わからない。
「なんで――……。なんで全部取り上げてしまう‼」
叫んで、叫んで。
ほんの僅かさえも、どうして許してくれない。
「雪月花、雪月花、落ち着いて」
震える雪月花の身体を抱きしめる。この苦痛を味あわせたのは、遠夜の言う通り自分であったのかもしれない。
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