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第10話

「大公子妃様⁉ このようなところで何をしておられるのですか‼」  本来散歩の時間以外で外に出ることを禁じられている大公子妃が護衛もつけず一人でいることに驚き、彼らは駆け寄ってきた。雪月花の手に、大公邸にあるはずのない花火を見て、顔色が変わる。 「その花火をどちらで?」  女が問いかけてくるが、雪月花はそれに答えようとはしない。当たり前だ。ここで花火をくれた男の名前など出せば、彼は即解雇されてしまうだろう。せっかく雪月花に親切にしてくれたのに、恩を仇で返すような真似はできない。  未だチラチラと光る線香花火を、女は雪月花の手から奪い取った。 「あっ……」 「このようなものを大公子妃様がお持ちになってはなりません」  そう言って女は躊躇いもなくバケツの水に花火を投げ入れた。綺麗な光を放っていた線香花火はすぐに消えてしまい、苦い臭いだけがその場に残る。 「さぁ、お部屋にお戻りください。二度と勝手に外へお出ましにならないように」  それまで何も口を挟まなかった男も加わって、二人がかりで雪月花を部屋へと促す。その時、服の中に隠していた残りの花火がバラと地面に落ちてしまった。二人の視線が落ちた花火に向けられる。 「このような物をお持ちになってはなりません」  女が花火を拾った。 「まて! それは――」 「このようなものを大公邸に持ち込むことは禁止されております! 大公子妃様がお遊びになる者ではございません!」  雪月花が縋って花火を取り戻そうとするが、男が雪月花の身体を押さえ、女は手にしていた花火をバケツの中へと捨ててしまった。 「そんな――……」  雪月花はその場にペタンと座り込んでしまった。目を見開いてバケツを茫然と見つめている。  花火をくれた男は言っていた。決して水に濡らしては駄目だと。濡らしてしまったらもう、花火は使えないのだと。  あんなに綺麗だったのに、あんなに楽しかったのに、どうしてすべてを取り上げてしまう。どうして、どうしてこの身は僅かの喜びを得ることさえ許されない‼ 「さぁ、揺り籠に戻りましょう」  茫然と座り込んでいる雪月花に女は手を差し伸べる。だが一向に立ち上がろうとしない雪月花に焦れて、その腕を取った時だった。 「ここはもういいよ。この子は僕が揺り籠まで連れて帰るから、君たちは下がって」  暗闇に響く、静かな声音。二人は葎が出てきたことで深く頭を下げた。

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