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第9話

 なにも元老院とて意地悪で禁止しているわけではない。遠夜の言う通り、鳥籠の窮屈さを覚えないための策だ。窮屈さを覚えてしまえば、外に出たくなるのが人間というものだ。その渇望は、簡単に止めることはできない。だが大公妃や大公子妃は大公達にとっては一番の弱点だ。大公を崇拝する者が大半だが、反感を持つ者がこの国にまったくいないわけではない。だが大公本人は誰よりも優れたアルファだ。そう簡単に倒すことなど不可能。だが、彼らの最大の弱点である番は、当然のことながらオメガだ。妊娠に特化したオメガは腕力でさえベータに劣る。攫おうと思えば簡単に攫うことができる。そして番に危害が加えられるとなっては、大公は国を捨ててでも番を助けようとするだろう。だからこそ、国のためにも、本人のためにも、大公妃や大公子妃は鳥籠の住人であってもらわなければならないのだ。 「知らない方が良いことだってある。だから俺は紅羽(くれは)には外の何も与えない。だが、もうあの子にその手段は使えない。既に外がどういったモノであるのか、他者の普通を知ってしまっては止めることなどできない。だが葎、お前もあの子も、他者が得る普通など、得られはしない。俺達は〝特別〟だからだ」  その特別を、喜んでいるわけでは、決してないけれど。 「でも遠夜。あの子は、ただ外との繋がりを遮断するだけでは納得しない。納得しないから、現状を受け入れることができないんだ」 「それで、あの子を失ってもいいのか?」  納得しないからと与えて、もしもそれで雪月花を失ってしまったら――……。  拳をわずかに震わせながら黙り込んだ葎に、遠夜は深々とため息をついた。 「もうじき元老院に見つかるだろう。葎、よく考えろ。甘やかすだけでは、守れない」  そう言って遠夜は踵を返した。窓の下に視線を向ければ、遠夜の予測通りに、雪月花に元老院が近づいているのが見えた。  こんなにも美しいものが外の世界にはあるのか。そう思いながら雪月花は三本目の花火に火を灯した。残った花火はあと二本。この一本で今日は終わりにして、また今度こっそり抜け出して火を灯そう。  チラチラと光る線香花火に頬を緩めた時、カサリと乾いた音が耳に届いた。ハッとして視線を向ければ、二人の男女がこちらを見ている。雪月花は急いで残りの花火を服の中に隠した。

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