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第5話 次のクリスマスはいつ?

「ユウゲン、おはよ!今日もくりいむのけーきたべる?!」 「あぁ?!」  それは12月26日朝6時だった。  いつもは早起きが苦手でユウゲンにたたき起こされるまでスヤスヤと眠っているタマが、ユウゲンの腹の上に乗って大声でしゃべっている。  今日は雨が降るかもしれない。  頭が痛くなるくらい元気なタマの声を抑えようと、ユウゲンは華奢な体を布団の中へと引きずり込んだ。 「やぁだ!タマもうおきたの!けえき!」 「ケーキはもうねーよ。クリスマスは昨日で終わったんだ。全部食っただろ?覚えてないのか?」 「ないの?」  よほどショートケーキが気に入ったらしいタマは、悲しそうに大きな瞳でユウゲンを見つめてきた。  パジャマ越しにタマの体を抱きかかえると、猫毛の茶髪がユウゲンの首筋を擽った。 「また来年な」 「らいねん、いつ?」 「一年後だ」 「いつ?」 「365日後」 「んん?」  タマの質問攻めは終わるところを知らなかった。それもそう人間たちは難しいことが大好きなのだ。  猫獣人にも、日付を使う者もいる。クリスマスを祝う者もいれば、ハヌカを祝う者もいた。   獣人が皆、タマのように無知なわけではない。タマはタマだから難しいことは知らなかったのだ。  路地裏での生活には必要なかったから。それに教えてくれる者も存在しなかった。ユウゲンがタマの初めてで唯一なのだ。責任重大な役目にユウゲンは意図もせずについてしまったわけである。  もちろん、後悔はしていない。  独身気ままな生活に猫が加わっただけの話だ。  そう、純粋無垢、無知で無邪気でお転婆で、噛み癖がひどい猫獣人が増えただけ…… 「よし、今日は外で朝ご飯喰うか!」 「くう!」  2人で過ごす毎日は何よりも幸せで溢れている。  ほら、忙しく動き回るタマの尻尾と耳を見て。あれが幸せの印でなければ何だというのだろう。 【終わり】

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