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第4話 プレゼントだもん
「ユウゲン、かんでいい?」
「いつも聞くけど、どうせ噛むよなお前」
「すきだもん」
タマは大満足していた。
人生初めてのクリスマスは、大好物なチキンと、生まれて初めて食べたクリームがたくさんのったケーキ、その上にちょこんと飾られていた苺、大きすぎず小さすぎない箱に包まれていたプレゼントなど、最初から終わりまでタマを喜ばせるものばかりだった。
そう、包装用の箱でさえ居心地が良くて、捨てるぞ、というユウゲンの足首にまとわりついて、この箱もプレゼントだもんと泣きついたのはタマだった。上目遣いの大きな瞳を濡らして頼まれてしまっては、「ただの段ボールだろ」とも言えずにユウゲンはしょうがないなと箱を捨てなかった。
「せめてその箱から出ろよ」
「やだ、これユウゲンがくれたハコだもん」
「俺があげたのはその中身なんだけどな」
もちろん、箱の中身であるプレゼントだって特別なものだ。タマだって、それは分かっている。だが、所詮タマは猫獣人。箱があれば入りたくなる性分なのだ。
「これもスキだよ?」
ユウゲンがくれたのはパジャマだった。
今までユウゲンのおさがりを着ていたタマにとって初めてのパジャマである。
真っ白の生地に魚のイラストが並んでいる。猫のタマにはぴったりなパジャマだった。
ユウゲンの誤算と言えば、生地が思ったより薄くてタマの肌が透けて見えることだろうか。
例えば、小さくて桃色の乳首だとか、幼さの残る腹に遠慮がちについているヘソだとか。それだけじゃない。タマがフワフワと動き回るたびに、布越しから体のラインが分かるのだ。
目の毒だ。
「ユウゲン、クリスマス、ありがと」
かわいい声がする方へ視線を下げると、箱に座ったタマが上目遣いでユウゲンの手を握っていた。
「気に入ったか?」
「ん……」
目線を合わせようと床に胡坐をかいたユウゲンのもとへタマは駆け寄った。もらったばかりのパジャマのズボンの触り心地を楽しむかのように、尻尾はくるくるとタマの太ももにじゃれ付いた。
「なんだ、眠いのか?」
「ちがうの」
「甘えてんのか?」
「んーん」
ユウゲンの右手を掴むとタマは親指の付け根を甘噛みした。
甘えていると言えばそうなのかもしれない。こんなことをしたいと思うのはユウゲンが最初で最後だと思う。
胡坐をかくユウゲンの上に座ったタマの体重は、出会った当初より少し重みを増した。毛並みに艶がなく、骨と皮だけのような猫の少年は、ユウゲンと生活することで綺麗な猫へと成長している。
「そんなに噛むのが好きか?」
「あむ……すきぃ」
よだれで濡れたタマの唇にユウゲンの視線は囚われていた。自由な左手が猫少年の背中を滑り、優しく腰を撫でた。
あとどのくらい我慢ができるだろう。理性の限界が目の前に見えているような気がしてしょうがなかった。
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