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第3話 ケーキの出番

「くりいむ!」 「フォーク使えよ。おいタマ、そんなに急いで食べたら具合悪くなるぞ」  チロチロとタマの真っ赤な舌が生クリームを堪能する。何を見せられているんだ、とユウゲンは目をそらした。  口周りについたクリームを気にせず、モグモグとケーキを楽しむタマは、皿の上に乗った苺を後回しにしているようだ。 「いちご!」  特別な宝を見つけたような、キラキラした瞳が真っ赤な果実を見つめていた。 「食べないのか?」 「んー……」  珍しい反応だ。     食べ物となれば一秒たりとも無駄にせず、気を付けていないと顔ごと突っ込むようなタマが、空になった皿に苺を乗せてコロコロと転がしている。 「ユウゲン、あげる」 「はぁ?なんでだよ、それはお前のだろ」 「タマのいちご、ユウゲンにあげるの」 「苺嫌いなのか?」  ん!っと差し出された苺を受け取ったユウゲンは、納得がいかずに首を傾げた。  何かが可笑しい。 「ターマ。ほら、食いたいんだろ?」 「でも、タマがたべたらユウゲン、いちごないの」 「俺はもう食っちまったからいいんだよ」 「ひとりでたべたら、だめなの」  どうもこの少年は勘違いしているようだ。  初めてのショートケーキに興奮し、周りが見えなくなっていた間に、ユウゲンはさっさと苺を食べ、残りのケーキも食べてしまった。それを見ていなかったばかりに、ユウゲンには苺がないと早とちりしてしまったようだ。   「はんぶこする!」  名案だ!とタマは飛び上がった。もちろん、食事中に立ち上がってはいけないというルールを途中で思い出したから、両手で口を押えて大人しくユウゲンの膝に座りなおしたのだが。 「ユウゲン、あーんしよ」  大きく開かれた口元には小さな牙が2本、キラキラと電灯が反射し美味しそうに輝いていた。  ユウゲンがタマの口に苺を持っていくまで、大人しく待てるような猫獣人ではなかった。小さな手のひらが、ユウゲンの手首をつかみ、弱弱しい力でぐっと口元まで誘導される。 「あーん!んぐんぐ、いちご、おいしー!」  半分だけ食べられた苺がユウゲンの右手に握られていた。何が起きたのかはしっかりと理解していたが、真っ赤な果実が、唾液で濡れるタマの唇に消えていく様を近距離で目撃してしまったユウゲンは、「落ち着け、落ち着け」と最近頻繁に唱えるまじないを念じ、理性を取り戻して曇り一つないタマの瞳に視線を戻した。 「美味しいか?」 「うん!ユウゲンもどーぞ!」 「ありがとな。ああ、甘いな」  頭上から聞こえるユウゲンの声に満足したタマは嬉しくて尻尾が揺れるのを止められなかった。 「つぎはプレゼント?」 「その前にここを片付けるぞ。タマ、皿をキッチンまで持っていけるか?」 「はーい!」

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