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#6
彼が作ってくれた服を着て、ダウンジャケットを羽織り、待ち合わせの場所に向かう。あの日以降、連絡が来なくなったのが少し寂しかったが、連絡をする資格はない。
彼の地元で開かれた写真展に戻る途中で偶然再会したこと、時希が記憶の中よりずっと成長していたこと、写真を凝視している表情に罪悪感と、やっぱり彼が好きだと思ったこと。
肌の温度が同じで、一度途切れた時間まで巻き戻った気分になった。落ち着ける場所である。
そして、時希が懐いてくれたことで、「家族」というものがわかった気がする。
『早めに来て、駅のカフェで息子と一緒に会わないか?』
『了解』
会う日時を決めてからと言うものの、ラインにメッセージが入るようになった。どうやら、藤埜の息子が寂しがっているらしい。
ひらがなやスタンプだらけのラインを藤埜の息子が送ってくれるときもある。彼曰く「俺ばっかりおととラインしていると、機嫌が悪くなる」だそうだ。
だから、月城が迎えに来てくれる駅直結のビルで落ち合い、カフェでゆっくりすることにしたのだ。
「おとさ~ん」
手がちぎれそうなほど大きく横に振る彼に、手を振り返すと、駆け出してくる。しゃがんで受け止めると、「おとさんに会いたかった」とぎゅっとしがみつかれ、笑みがこぼれる。
似たようなシャツコーデに、思わず笑いがこみ上げてくる。似たもの親子であるし、やっぱり藤埜はセンスが良くて、カッコイイ。
「パパだけおとさんとお買い物ズルいよ」
口をとがらせ、服を握る手に力をこめる。
「パパとおとさんがデートだから、ごめん。迎えに来たら、遊んでもらおう」
「えーでも……、僕もデートしたい!」
「迎えに来たら、家族みんなでデートしよう。どうかな?」
「おとさん、僕と家族になってくれるの?」
色々違っているが、青空が晴れ渡るような笑顔が眩しい。
「おとは俺のものだから、渡さないよ」
諭すように語り掛けるが、嫉妬心をむき出しにした言葉に、音和は藤埜に笑いかけた。目が合うと、くしゃりとした笑顔が息子とそっくりでなぜか泣きたくなる。
「パパ~」
「カズも大人げないよ」
「おとさん、抱っこ」
抱き上げながら、立ち上がる。空いた右手で藤埜の手をつかんだ。他愛もない会話をして、どんな時も彼の――彼らの傍にいられることが幸せだと気付いた。
子どもに固執して、どこか不安を抱えて、本当に好きなのに、自分がいなくなれば別の幸せをつかんでくれると思って、逃げていたあの頃。
でも、それは違っていたんだ。
彼が好きだから、今度こそ手を離さず、傍にいる。
どんなこともきっと乗り越えられる。
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