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第1話

廊下に中間テストの結果が張り出されている。 4位に自分の名前である《真島麗音(まじま れおん)》の文字が目に入った。 それを眺めると不満げにリムレスの眼鏡を押し上げた。 いつも自分の名があるはずの3位の場所には神惣介(じん そうすけ)の名前。 (とうとう抜かれた……神に) キリリと歯を食いしばり、周囲に悟られないよう神の名前を睨んだ。 毎回、テストの順位表で自分の下に神の名前があった。点差はギリギリの所で、いつか抜かれてしまうのではないかとは思ってはいた。 「今回のスパダリ対決は、神くんの勝利かぁ」 「でも、顔は真島くんだよね」 「神くんもかっこいいけどねー。運動は神くんじゃない?テニスで県ジュニアランキング3位だって」 「家柄は、神くんは医者で真島くんちは会社社長だからほぼ互角だし」 近くで女子達が好き放題言っているのが嫌でも耳に入る。 隣のクラスの神惣介は、190センチの高身長でテニスの強豪であるこの青藍高のエースだった。見た目は愛想はなく強面ではあったが、無表情な顔がクールだと女子には人気のようだった。 他人に興味のない麗音ですら、その存在は知っていた。 (くそ!) 内心で罵倒を吐くと、軽く舌打ちをした。 ふと、視線を感じ顔を上げると、大柄な男がこちらをじっとこちらを見ていた。 (神……) 神はライバル視でもしているのか、時折こうして麗音をじっと見ている事がある。 今も麗音が視線に気付き目が合ったが、視線を逸らそうとはしない。自分が見ている事を神は隠そうとはしていないように見えた。 その日の学校を終え、麗音は一度自宅マンションに戻ると着替えた。 昼間の姿とは全く違う自分が鏡の中にいる。 ダークブロンドの髪を軽く上げ、優等生の象徴のような、リムレスの眼鏡を外し普段目立たないようにさせている淡いブルーの瞳をここぞとばかりに露わにさせた。 これだけで昼間の優等生の自分とは全く印象が違っていた。この見た目では誰も『青藍高校の優等生』だと気付かない。 機嫌良くマンションを出ると、仲間が集まるバーに足を向けた。 夜の仲間たちは所謂不良の類。週末の夜はこの、不良グループの仲間たちとつるんでいた。 溜まり場のバーに向かう中、路地裏で人が争う声が聞こえた。路地裏を除くとまず目に入ったのは、制服姿の大男の背中。 (でけーな) 大男は、臆する事なく5人の柄の悪い男を見下ろしている。 絡まれている大柄な男の横顔に見覚えがあった。 (じ、神!なんでこんなとこに……!) 咄嗟に逃げようと来た道を戻ろうとしたが、次の瞬間には踵を返していた。 「加藤さん、何してんすか?」 男たちの中の知った顔である男の名を呼んだ。 「よお、ハルトか。いやこいつが、因縁つけてきやがってよ」 そう言って怪訝そうに親指を神に向けた。 ハルトとは母親が結婚する前の苗字だ。この界隈では、『ハルト』で通していた。 「因縁?そっちが絡んできたんでしょう。ここを通りたかったら金寄越せって」 ズイッとその大きな体で加藤に近づくと、加藤は怯んだように後退りをした。 「こんな高校生のガキが金持ってるわけないでしょう」 バレない自信はあったが、敢えて麗音は神に背を向けた。 「青藍のお坊ちゃんだぜ?絶対持ってるって」 「それより、いい話あるんですよ。そんなガキより俺の事相手してくださいよ」 加藤の肩を組みそう言うと「ねっ?」と、耳元で囁くように呟いた。 「お、おぉ。おまえがそう言うんじゃ、しょうがねぇな」 加藤は顔を赤らめながら、麗音の顔に見惚れている。 「青藍のお坊ちゃんは、早く帰ってお勉強でもしてな」 そう捨て台詞を吐くと、立ち尽くす神を残し逃げるように店に入った。 (あいつを蹴落とすチャンスだったかな?) 普段なら決して面倒事には関わろうとはしないはずだった。だが、それが神だと分かると勝手に体が動いていた。 (まぁ、ライバルいなくなったらつまんねぇしな) そう思っているのきっと、自分だけなのだろう。

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