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第8話
何度したのか覚えていない朝なんて、どれぐらいぶりだろうか。
体もまぶたも重くて、もう少し眠りたい気分だけど横から突き刺さる視線にため息をついてからなんとか寝返りを打った。
「……おはよう」
そこにあったのは、俺を見つめるなんとも晴れやかな顔。
「なに笑ってんの」
「うみさんの声で『こんばんは』じゃないの、なんかすごいなって」
確かにラジオの挨拶はいつも「こんばんは」だ。その響きが聞き慣れなかったらしく、壮良くんは嬉しそうに顔を綻ばす。
「俺、朝ってめちゃくちゃ苦手なんだけど、めちゃくちゃ好きな人と目覚める朝って最高」
さりげなく抱き寄せられて、まあいいかと大人しくその腕に収まった。特別大きな体ではないのにしっかり筋肉がついた体はたくましく、昨日の夜を思い出して少しだけ恥ずかしくなる。
「じゃあこれからは朝が好きになっちゃうね」
「……うみさんそのセリフ最高」
最高な朝が続いたら、それはもう好きな分類になるのではと普通のことを言ったつもりなのに、しばし硬直した壮良くんは深い息を吐きだすとともにそう呻いた。どうやらなにかにクリティカルヒットしたらしい。
そして毎朝好きって言うから、とさりげなく無茶でエロい提案を口にした壮良くんは、俺を抱きつぶす勢いで力を込めてハグをする。
「好きだようみさん。ここまで俺に惚れさせて、こんな風になった責任取って」
「……責任問題は確かに年上がかぶるべきものだよなぁ」
甘い甘い声での告白と、苦い責任の追及と。
まるでカフェオレのような塩梅だと笑って、ならばとそれを飲み込んだ。
「じゃあ『青色2号』さんを名誉リスナーとして紹介しよう」
「うっ……嬉しいけどそうじゃなくて」
「そんな名誉リスナーさんには、記念としてラジオパーソナリティの海道侑心と素敵な朝をプレゼント、は?」
「愛してるうみさん! これからもよろしく!」
リスナーとしてなのか恋人としてなのかわからない力いっぱいの返しに、はいはいと笑ってこちらからも背中に手を回した。
とりあえず、10周年の企画は、別のものを考えよう。
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