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BL界に颯爽と……?
デビューだ、と四十がらみの美丈夫に肩を叩かれた。
久世朋樹 は小さくうなずき返すと、アフタヌーンティーのセットを載せたワゴンを押して、ホールへと踏み出した。
きりっとした顔立ちに比して、優雅な足どりで窓際のテーブルに歩み寄っていくさまに視線が集まる。
黒いベストとスラックス姿も相まって、しなやかな躰の線がいっそう引き立つ。
朋樹はテーブルのかたわらで立ち止まった。ティーポットその他を並べ終えると、わくわく顔の男性客を見据えたうえで、サンプルをひとひねりした科白を言う。
「熱い眼差しに魂を灼かれて〝……俺、今お前に殺されかけた〟」
一刹那、店じゅうが静まり返った。誰かが噴き出したのが引き金となって、一転して爆笑の渦に包まれた。
朋樹は拳を握った。研修で教わったとおりにやったのに、笑う要素がどこにある?
立ち尽くしているところに先ほどの美丈夫──オーナーの才賀遼一 が飛んできて、朋樹の後ろ頭に手を添えた。
頭を下げるよう急かしつつ、艶のあるバリトンで詫びた。
「久世が不調法をいたしまして申し訳ありません。新入りにつき、ご容赦のほどを」
「いや、やる気が空回りしているのが逆に初々しくて、悪くないよ」
客は苦笑交じりにそう応じると、朋樹に向かって激励のガッツポーズをしてみせた。
本物の洋館の一室を店舗に改装したここは、異色のカフェだ。
謳い文句は〝BLの世界をご堪能ください〟。会員制で、ただし客は男性に限られる。
一般のカフェでは「お待たせしました」が、紅茶なりを供するさいの決まり文句だ。
ひるがえってこの店、ハイドアウト──隠れ家──の場合は、BL漫画や小説から引用したような、悩殺ものの萌える科白を言い添えるのがミソだ。
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