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チクショー、こんなはずじゃ、くぅぅ

 いわゆるノンケの男性だってBL特有の危うい雰囲気に浸ってみたい、という潜在願望があるはず。  才賀の読みは的中し、連日予約が殺到する繁盛ぶりだ。また、堂々とした体軀でスリーピースを着こなす才賀が粒ぞろいのスタッフに采配を振る様子は、帝王級の攻が降臨したと崇められるほどだ。  その才賀から、 「初日ゆえ大目に見てくれなどと甘ったれた考えは通用しない。過剰な演技が鼻についてお客さまをシラけさせて、それでも役者の端くれか」    朋樹は閉店後の事務所で叱られて、 「……さーせん」  しゅんとなった。  高校を卒業した翌日に役者をめざして上京してきてから三年と八ヶ月。中堅どころの劇団の一員だが、役にありついても〝村人A〟どまりだ。  もちろん給料は雀の涙で、割のいいアルバイトを探していたところ、劇団の先輩の口利きもあってハイドアウトに採用してもらえた。  即興劇は得意だ、と張り切っていたのだが現実は厳しい。BLは未知の領域で、その登場人物になりきるのは、密林に分け入るようなものだ。  才賀が机の天板を指の背でこつこつと叩く。 「きみは表情が豊かで、わんこキャラも俺様キャラもこなせる有望株と期待していた。しかし評価を改めねばなるまい、大根と」  仮にも役者をつかまえて大根とは、ひどい侮辱だ。朋樹は(まなじり)をつりあげたものの、才賀に食ってかかるのは我慢して、 「『大根を返上したければ、お客さまをときめかせてナンボの商売だということを理解したまえ』──だってさ、ムカつくぅ!」  自宅に帰り着くなり、同居人の高瀬柾(たかせまさし)に足首を押さえてもらって、憂さ晴らしに腹筋運動に励んだ。 「才賀遼一って、リストランテとかフレンチとか何軒も経営してる勝ち組だっけ」 「既存店で儲けて、道楽ではじめたBL喫茶で儲けて、あくどいオッサンだよ。気障で、上から目線で、人種が違う感じ」 「何事も経験、芸の肥やし」

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