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親友よ、この場面でなぜキョドる
と、デコピンをみまってくる高瀬とは高校に入学して以来の腐れ縁で、現在 では安アパートをシェアする仲だ。
イケメンの部類に入る眼鏡男子で、なのに朋樹が知る限り浮いた噂ひとつない。
本人曰く「在宅のWEBデザイナーは出会いがない」とのことで、そのくせ合コンに誘っても納期がどうのと、はぐらかすのが常だ。
食事当番の高瀬が米を研ぎはじめた。
朋樹は帰りしなに才賀から押しつけられた紙袋を引き寄せた。
「『これらを教材にBLの基本を学ぶこと』かよ。見てろよ、才賀。くさい科白を完璧にマスターして、ぎゃふんと言わせてやる」
BLコミックスの山の中から適当な一冊を選んで斜め読みすると、濃厚なセックスシーンに目がチカチカした。嫌な汗をぬぐい、別の一冊を裏に返して、あらすじを読みあげる。
「タカシとケンジは数年来の親友同士。ケンジはタカシに片思い中で……びっくりした!」
炊飯器の内釜が床に落下した。天然は罪だ、という独り言はけたたましい残響にかき消され、代わりに揶揄 を含んだ助言が肩越しに授けられた。
「反感が恋に変わるのがBLの王道パターンのひとつ。オーナーと図式的に当てはまる危険度が高いから、用心するように」
その夜の肉野菜炒めはやけに脂っこくて、胃にもたれたせいかもしれない。朋樹のガラスの仮面は、翌日もひび割れっぱなしだった。
ツンデレ路線でメニューを差し出すさいには科白をトチる。甘えっ子モードで注文を取ると顔がひきつる。クレームの嵐に心が折れる寸前で、しかも居残り特訓を命じられた。
もっとも才賀がじきじきに指導にあたるのは異例とのことで、バイト仲間には羨ましがられたが。
「物語の背景を想像しなさい」
才賀が、ホールの椅子に腰かけた。
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