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恋のラビリンスをさまようぞ
「わたしの身体は、全部あなたさまでできているのでございます」
うっとりした余韻に包まれるなかで、扉が開閉した。朋樹はすぐさま高瀬を追いかけて追い抜き、通せんぼうした。
高瀬は光るものがある睫毛をぬぐうと、微苦笑に顔をゆがめた。
「反感を抱いてたぶん惹かれだしたらずぶずぶのパターンでどんでん返しはなし……か。ソッコー荷造りして同居は解消、元気でな」
「俺らの友情って、オール・オア・ナッシングなのかよ」
足かけ七年を超えるつき合いの中で育まれた絆が断ち切られてしまうなんて。そう思うと胸が張り裂けそうになる。
高瀬の腕を摑んで振りほどかれて、抱きすくめると肘鉄を食らい。衣装が破れてもかまわず揉み合っているところに、才賀が悠然と歩み寄ってきた。
「科白に込められた熱量を以てしても、わたしが現時点で一歩リードしているのは明らかだが、性急に事を運びすぎた感があって後味が悪い。そこで提案だ」
朋樹の頬をついばんで、高瀬をくやしがらせる一方で人差し指を立てた。
「フェアプレーの精神に則って久世くんにアピールし、バレンタインに手作りチョコをもらったほうを恋の勝者とする。この条件で乗るか、乗らないか」
余裕かまして、と高瀬は憎々しげに吐き捨てた。ひと呼吸おいて、差し出された右手をがっちりと握り返す。
朋樹は、うずくまってジタバタした。一幕ものの芝居の脚本が二幕ものに書き換えられたように、恋のバトルも延長戦にもつれ込むなんて悪い冗談だ。
確かに高瀬にはほだされるかもだし、才賀には押し切られるかもだし。だからといって、ひとりに絞れと迫られても困る。だって、甲乙つけがたいというやつだ。
髪の毛を搔きむしった。役者道に邁進するのが先決で恋は二の次……なのだが、俺を半分こにしてあげれば問題解決と思うあたり、愛という底なし沼にはまりかけている証拠だろうか。
今後ひと波乱も、ふた波乱もある気配が濃い街角にクリスマスキャロルが流れる。
──了──
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