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これから始まる(5)

「ねぇ、口開けてよ」 「んぅ……?!」 それに驚く間もなく、今度は唇を塞がれる。 あっさりと彼の舌が口内に侵入し、奥に逃げた俺のそれを優しく絡め取る。   「ふぁ、」 「かわい、」 胸板を強く押すも、敵うはずもなくて。 腰と後頭部に回された手のせいで、身動きも取れない。 何が起きているのかと頭を働かせて考えてみても、彼にキスをされているという事実だけが頭の中をぐるぐるしていて、もう全てが夢なんじゃないかって、そう考えたら力が抜けた。 我慢していた涙も溢れ、彼とのキスは涙の味がする。 もしこれが夢だったら、なんて最悪な夢なんだろう。 夢の中でさえも、こんなに苦しまなきゃいけないのか。 「ひかる……」 「……っ、」 あぁでも。 キスを終えて俺を見つめるこの彼の目が、優しくて、もっと愛おしく感じて、やっぱり現実であって欲しいと、そっと彼の頬に手を伸ばす。 温かなその感触に、夢じゃなかったと安堵して、でもそれはそれで困るじゃあないかって、結局はまた心が痛む。 彼に対しての好きの気持ちはいつの間にか、自分で思っていたよりももっと大きくなっていたんだなぁ。 「ひかる、それは何の涙?」 「ぐちゃぐちゃで、なにも、」 「ん?」 「もう、なにも分からない、」 混乱している頭でも、唯一分かるのは、どうしようもなく彼が特別で大切だってことだけ。

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