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これから始まる(4)
「お前は相変わらず小さいな」
「……ぁ、」
心臓がうるさい。痛い。
いつもならそんなことないって言い返すのに、そうする余裕なんかこれっぽっちもない。
彼の温もりに、匂いに、包まれてくらくらする。
「ひかるの心音、すげぇ」
「ちがっ、」
「何が違うの? 俺にこうされて、ドキドキしてんだろ?」
「……っ、」
ドキドキくらいのもんじゃない。
痛くて、痛くてたまらないんだ。
ねぇ、からかうにも程があるよ。
俺の気持ち、本当は知ってるの?
知ってるから、こんなことして楽しんでるの?
「ひかる」
「やめ、」
彼が、耳元で名前を囁く。
そんな甘い声、聞いたことない。
「……うぁ、」
痛い。痛いよ。
抱きしめられて嬉しいだとか、名前を呼ばれてときめくだとか。
そんなことは一切なくて。
ただ、彼にされるがままで抵抗もできないし、気持ちがバレていたら、バレてしまったらどうしようってそればかりが怖い。
それに、可能性なんかないくせに、もしかしてという言葉が頭にちらついてる、そんな自分がとても恥ずかしい。
「ひかる、」
「や、」
俺を抱きしめていた手の力が緩んだかと思うと、今度は顎に手をかけられ、そのまま持ち上げられる。
ひどい顔を彼に見られてしまったと、最悪なこの状況に視界がぼやけていく。
泣いちゃダメだと、強く言い聞かせながら必死にこらえると、彼はふわりと笑って俺のまぶたにキスを落とした。
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